理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: EO400
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成人中枢神経疾患
左頭頂葉皮質下損傷後に動作・姿勢保持障害を来した症例
*村山 尊司沼田 憲治高杉 潤宮本 晴見
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抄録

【はじめに】左頭頂葉皮質下出血後,運動麻痺や感覚障害が軽度にも関わらず,基本動作が拙劣で,垂直位での立位保持が困難な症例を経験した.動作観察,神経学的検査,画像所見から検討した結果,基本動作や姿勢保持の障害は頭頂連合野の機能障害によると推察されたので報告する. 【症例】76才女性,右手利き.職業;主婦業(元小学校教師).診断;左頭頂葉皮質下出血.既往歴;特記事項なし.現病歴;2002.8.1発症,近医入院,保存的治療開始し,同年8.29当センター入院.【画像所見】MRI(T2強調;発症当日),CT(発症後1ヶ月)所見:左上・下頭頂小葉の皮質下および頭頂間溝領域に血腫像を認めた.【神経および神経心理学的所見:発症後6週】意識清明.MMSE;21/30.WAIS-R;FIQ75(VIQ91,PIQ61).失語はなく日常訓練場面での会話に問題はなかった.運動麻痺(Brunnstrome stage);右上下肢・手指共にVI.腱反射右上肢軽度亢進.病的反射陰性.感覚;表在覚正常,右上下肢深部覚軽度鈍麻.視野障害なし.右半側無視;机上検査上なし.右半側身体失認;動作場面で右下肢を忘れることがあった.観念・観念運動失行認めた.Gerstmann症候群(四徴候)認めた.触覚性物品呼称問題なし.視覚性運動失調;右周辺視での右上肢運動時に認めた.右上下肢の関節定位覚障害認めた. 【基本動作および立位姿勢:発症後6週】1.基本動作.寝返り動作は左・右方向共に拙劣な動きで,完全に側臥位になる前に動作を完結した.「横向きになれたかしら?」など自身の行為,身体状況について曖昧な内観であった.立ち上がり動作は動作開始時に後方に反り返り立位姿勢まで至らず,後方へ倒れることが観察された.2.立位保持:何とか可能であったが,右後方への転倒傾向を示した.垂直位での保持を命じても定位が困難もしくは,定位と判断しても右後方に傾いていた.内観は「どこが真っ直ぐか解らない,(定位した位置に対して)自信がない」,傾いていることを指摘しても「どっちに倒れているか解らない」などの報告がなされた.3.立位での視覚的垂直軸判断(周囲の垂直が判断できないような白い壁面に回転する針を取り付け,垂直位を判断させた)に問題はなかった.【考察】頭頂連合野,特に上頭頂小葉は能動的な体性感覚情報,運動に関連した視覚や前庭覚情報の統合,姿勢の識別,body imageの形成に関わると考えられており、本症例にみられた基本動作での行為や内観,関節定位覚障害はそれら機能障害に起因したものと推察される.ヒトの立位保持には体性感覚,視覚,前庭迷路の情報が必要とされる.立位での垂直定位は,視覚(視覚的垂直軸判断)と,自己の主観的な判断(姿勢と内観)とで違いがみられた.これは頭頂葉皮質下損傷により身体情報入力の統合過程でdisconnectionが生じたためと推察された.

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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