抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺患者の痙性筋に対するストレッチングは、筋の伸張性を維持・改善する目的でよく行われる。しかし痙性筋において、収縮要素である「筋」と力の伝達要素である「腱」のそれぞれの伸張特性や、ストレッチングがそれぞれに対しもたらす影響については十分に明らかにされていない。そこで、それらを明らかにすることを目的に、超音波診断装置を用いた検討を行った。【方法】対象は脳卒中片麻痺患者8名(男5名、女3名、年齢70.9±9.9歳)、及び比較対象群として、下肢に既往の無い健常者8名(男1名、女7名、年齢29.9±4.7歳)とした。足関節底屈位30°を基準とし、底屈10°、及び背屈10°へと他動伸張を行った時の、伸張力及び腓腹筋内側頭筋健移行部の位置変化の測定を行った。背屈10°での測定は、同肢位での10分間のストレッチ施行前と施行後に行った。筋腱移行部の位置の計測は超音波診断装置FF Cardio FCU-2000(フクダ電子製)を用い、他動伸張力の測定はCPU GAUGE(AICOH ENGINEERING社製)を用いて行った。【結果】底屈30°から底屈10°への他動伸張においては、健常肢では2.3kgの伸張力で筋腱移行部が遠位に0.67cm移動したのに対し、片麻痺肢では3.3kgの伸張力で筋腱移行部は遠位に1.02cm移動した。この時、筋健移行部の移動量について、健常肢と片麻痺肢の間に有意差(p<0.05)を認めた。背屈10°への他動伸張においては、健常肢では8.43kgの伸張力で遠位に1.75cm移動したのに対し、片麻痺肢では15.71kgの伸張力で遠位に1.75cm移動した。この時、伸張力について、健常肢と片麻痺肢の間に有意差(p<0.05)を認めた。ストレッチ後の背屈10°への他動伸張では、健常肢では7.74kgの伸張力で移動量は遠位に1.77cmであったのに対し、片麻痺肢では14.86kgの伸張力で移動量が1.81cmであった。健常肢、片麻痺肢共にストレッチ前後で有意差は認められなかった。【考察】本研究の結果では、腓腹筋内側頭の筋腱複合体全体の伸張度が同じであったのにも関わらず、片麻痺肢が健常肢に比し2倍近く大きな伸張力を受けた。この時、片麻痺肢では「筋」「腱」双方にそれぞれ2倍近い伸張力が作用している。伸張力が大きく作用したにも関わらず、筋腱移行部の移動量に差がみられなかったということは、片麻痺肢においては「筋」「腱」ともに伸張性の低下が生じていることが考えられる。また、ストレッチ前後の伸張力に差がみられなかったことは、背屈10°での10分間のストレッチでは、伸張効果が不十分であったことを示している。健常肢に比し強い伸張力を作用させた片麻痺肢においても、伸張力及び筋腱移行部移動量いずれの変化も生じ得なかったことは、「筋」「腱」いずれに対しても伸張性の変化を生じさせることができていないことを示している。ストレッチについては、より強い伸張力を作用させて、効果の検証を行う必要がある。