抄録
【はじめに】脳血管障害の40から60%は嚥下障害を伴うと報告されているが、急性期理学療法の場面で積極的に嚥下障害に対する理学療法をおこなっている報告は少ない。我々は、第8回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会において、嚥下運動障害を表す指標として舌骨上・下筋群の伸張性と収縮性および喉頭位置を提唱し、嚥下障害重症度との関連について報告した。今回は、研究に対する同意が得られた嚥下運動障害を有する脳血管障害者について、これらの指標の経時的変化を測定し、指標の改善を目的とした理学療法介入の効果を検証したので報告する。【方法】対象は平成14年8月から10月にM病院に入院し脳血管障害を発症して1ヶ月以上経過しても嚥下運動障害を有していた急性期介入群11例(平均年齢70.5歳、男女比6:5)と同時期にA施設に入所していた慢性期介入群11例(平均年齢81.5歳、男女比4:7)とした。対照群はM病院に入院し、介入研究開始前に経過を追うことができた急性期非介入群16例(平均年齢68.7歳、男女比12:4)であった。 比較項目は、運動麻痺の程度・NTPステージ・頸部可動域(4方向)・反復唾液嚥下テスト(以下RSST)・改訂版水飲みテスト(以下MWST)・食物テスト(以下FT)・嚥下障害重症度分類(才藤による)・舌骨上筋伸張性(GT)・舌骨下筋伸張性(TS)・舌骨上、下筋群収縮性(GSグレード)・喉頭位置(GT/GT+TS)の11項目とした。 介入方法は、肩甲帯のリラクゼーション・頸部筋の伸張・舌骨上、下筋群の伸張・舌骨上筋に抵抗を加えた筋再教育・頭部挙上位保持練習・座位で体幹の分節的活動促通の6項目を症例に合わせて選択し、1回20分、2週間で8から10回の介入を行った。介入群は、介入前後と介入終了2週間後の3回、非介入群は通常(嚥下障害以外)の理学療法を行い平均19.2日間の前後2回で各項目の変化を比較した。 前後の差の解析は、Wilcoxonの符号付順位検定で修正後のP値を求め、各群の各指標の変化について分析した。【結果】対照群で統計学的有意差がみられた指標は、NTPステージ(P=0.03)のみであった。急性期介入群の介入前後では、GT(P=0.01)、RSST(P=0.02)、MWST(P=0.04)、嚥下障害重症度(P=0.03)、NTPステージ(P=0.02)に有意な改善がみられた。介入後と2週間後では頸部屈曲(P=0.03)のみが変化し、介入前と介入終了2週間後では介入前後と同じ項目において有意差がみられた。慢性期介入群の介入前後では、頸部ROM4方向とMWSTに、介入後と2週間後では頸部回旋・側屈とRSSTに有意差がみられた。介入前と介入終了2週間後では回旋とMWSTのみに有意差がみられた。【考察】急性期介入群では、嚥下運動障害に対して理学療法介入効果がみられ、この時期に理学療法士がこれらの指標を改善するよう介入することの意義を示すことができた。慢性期介入群では、介入効果が一過的な傾向もみられるが、水分嚥下については介入効果が得られ、施設においても理学療法士が嚥下障害に果たせる役割があると考えられた。