抄録
【はじめに】今回,ポリオにより左側優位の不全対麻痺に脳梗塞による右片麻痺を合併した一症例を経験した.主に歩行能力獲得に向けて,1)装具,2)筋機能強化,3)歩行補助具検討を中心にアプローチを行ったので報告する.【症例紹介】61才,男性.1才頃にポリオ罹患.その後独歩自立であったが,19才頃骨盤帯付左長下肢装具(以下,左装具)作製し右T字杖使用歩行となる.平成7年に脳梗塞右片麻痺で当院入院.約3ヶ月のリハビリテーション後,入院前の状態で退院.今回,平成14年6月,左脳梗塞により入院.糖尿病,高血圧を合併.平成14年8月より当院回復期病棟へ転棟.転棟時評価はBrunnstrom StageV-V-IV,筋力低下は右上肢軽度,両下肢,特に左で著しい.SMDは右75.5cm左72.5cmと脚長差を認めた.立位歩行時は右足関節内反が強く,右足部を矯正し,左装具使用で平行棒内監視.病棟ADLは車椅子移動で入浴以外自立であった.【理学療法及び経過】1)装具 プラスチック製でエアキャスト装具に足底板を加え,更に外側ウエッジと補高を行う形式で装具処方された.最終的には,脚長差の助長を防ぐため,前開き式革靴に外側ウエッジと補高を約5mm取り付ける改良靴の使用となった.2)筋機能強化 体幹・上肢に対しPNFによる促通の他,プッシュアップ・起居動作を中心に行った.筋力低下著明な下肢に対しては,右足部外反促通の他は過用予防のため起立歩行のみとした. 3)歩行補助具検討 歩行練習は平行棒内4動作歩行から始め,順次,交互歩行器,両松葉杖へと移行.この際,左杖を約20mm長く設定し,左下肢振り出しを容易にした.最終的に左装具,右改良靴着用,両松葉杖使用,4動作右そろい型で病棟内歩行及び手すり伝い歩行自立,屋外歩行監視の状態でH14年10月に退院した. 【考察】現在ほとんど発症は見られないポリオは近年,易疲労性・筋変性などの2次的な機能障害(post-polio syndrome;以下PPS)が注目されている.また当時のポリオ罹患者は現在,生活習慣病のリスクが高くなる年代である.本症例はポリオによる不全対麻痺と生活習慣病のひとつである脳梗塞右片麻痺を合併しており,このような重複例の報告は少ない.症例は著明な両下肢筋力低下と右足部痙性による内反が混在しており,歩行獲得には下肢だけではなく全体的なアライメント調節が必要になると思われる.また,PPS予防のためには過負荷に対して特に慎重に行い,効果的な筋機能強化と適切な補装具使用が求められる.このような理由から上記のような補装具の導入となり,歩行獲得は限定的ながら可能となった.しかしPPS予防に対する効果は検証が困難であり今後の課題となる. 【結語】ポリオと脳梗塞による麻痺の重複症例に対し歩行を中心にアプローチを行った.今後過用予防との関連性については症例を積み重ねる必要があると思われる.