抄録
【はじめに】今回,階段昇降の観察で平地歩行と運動パターンの変化がみられた症例を担当した。この変化から治療介入の手がかりを得られたので,若干の考察を加え報告する。【症例紹介】67歳男性,診断名:脳梗塞(左中大脳動脈閉塞)CT所見:左側頭葉から前頭葉にかけ広範囲な梗塞巣が認められる。現病歴:発症後約3週間で当院転院。【全体像】コミュニケーションは理解が乏しく発話が困難で失語を認める。Brunnstrom Stage上肢4,手指5,下肢4。感覚は表在,深部ともに鈍麻。基本動作は全般的非麻痺側優位で自立。移乗・移動は車椅子操作・駆動介助を要する。麻痺側上肢が大腿部の下敷きの場面が多い。院内ADLは食事を除き介助を要した。また治療場面では視・聴覚的な刺激に過敏に反応し注意を集中できない印象がある。【平地歩行と階段昇降】平地歩行で特徴的な点は1.視線を非麻痺側空間に置く2.麻痺側肩甲帯内転下制・非麻痺側肩関節伸展位で上肢を固定する3.麻痺側下肢の振り出しは体幹を伸展・股関節を外旋させ足部を引きずる4.麻痺側立脚期は腰椎前彎を強め骨盤を左下制させ後方に転倒しそうになり非麻痺下肢を振り出せない事が多い。またこの時,腹部・麻痺側殿筋群を触診すると収縮が弱く,背部筋群は緊張が高いと触知された。階段昇降では麻痺側下肢を挙上させる時,股・膝関節屈曲,足関節底背屈中間位で空間に保持できる。また麻痺側下肢で支持する時は平地歩行と比し大腿四頭筋・殿筋群の強い収縮がみられた。【問題点】上述の観察を比較し,問題点として下部体幹・麻痺側殿筋群の低緊張及び両側肩甲帯周囲・腰背部筋群の高緊張による姿勢筋緊張を背景に,運動感覚的に刺激量が少ない場面(平地)では,非麻痺側上肢を固定させ,腰椎の可動性及び,麻痺側下肢支持性は乏しく,後方へバランスを崩して歩行が困難になると考えた。従って,治療では運動感覚的に刺激が多く注意を集中できる場面を選択した。【治療内容】課題動作としてA.平行棒を歩行しながらタオルで拭くB.フラフープ通し(立位のセラピストへ頭尾方向にフラフープを通す)C.立位で両下肢での輪取りD.ハードル(段差)越え歩行E.スポンジドリブル,を実施した。【結果】麻痺側へ注意を向けられるようになり,平地歩行での安定性が向上しバランスが崩れた時の自己修正が可能になった。【考察】本症例は、言語・動作指示理解困難に加え注意散漫で,バランスを崩した時自己修正困難であった。これに対し歩行能力向上のために、自発的な運動感覚的注意を集中する場面からの治療介入を考えた。治療介入全般に集中した場面設定を行った。結果,麻痺側への注意がむけられるようになりバランスの崩れに対する自己修正が可能になった。また、スポンジドリブルや下肢での輪取りという課題動作で麻痺側の片脚立位や空間保持が可能となり歩行時の引きずりが軽減し平地歩行の安定につながったと考える。