理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: BO455
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運動・神経生理
ヒト足の母指内転筋斜頭の形態形成
母指内転筋斜頭を貫く神経の存在
*荒川 高光関谷 伸一寺島 俊雄
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抄録

はじめに:ヒト足の母指内転筋は個体発生、系統発生学的に興味深い筋であるが、その詳細な解剖学的報告は乏しい。母指内転筋は斜頭と横頭が存在する。われわれは第37回日本理学療法学術大会にてヒト、アカゲザル、チンパンジーの当筋両頭の起始、停止、筋重量を調査し、ヒト母指内転筋両頭の起始部の変異について考察を加え報告した(荒川ら, 2002)。ヒトの骨格筋の形態変異について考察する際には支配神経から筋を同定することが重要である。なぜなら、支配神経と筋の間には発生過程を反映する何らかの安定的な関係が存在すると考えられているからである(木田,1995)。今回われわれはヒト足の母指内転筋、中でもその斜頭を支配する外側足底神経が、斜頭を貫いた後に内側足底神経と交通する例を2例観察した。よって所見の詳細に加え、ヒト足の母指内転筋の形態形成を考察して報告する。対象と方法:対象は平成14年度神戸大学医学部解剖学実習における実習体2体2足である。両標本ともに外科的既往はとくになく、足底の筋が欠除することはなかった。外側足底神経と内側足底神経をその支配する筋とともに骨から取り外し、ゴムボード上に固定し、水浸させた。そして手術用双眼実体顕微鏡(オリンパス社製)を使用して、標本の神経上膜を取り除き、周膜レベルでの線維解析と母指内転筋両頭の支配神経の筋内分布を検索した。結果:2例のうち1例から得られた所見をまとめる。母指内転筋斜頭の支配神経は斜頭内で大きく3つの枝に分かれ、各枝の間には交通が見られなかった。3つの枝は、浅層(足底側)の内・外側の2つの筋束、および深層の筋束に分布した。従って神経支配の筋内分布から、母指内転筋斜頭を3つの要素に分けることができた。内側足底神経との交通枝は、斜頭の深層の筋束と浅層の外側部筋束の間から斜頭に進入し、浅層の2つの筋束の間を貫いて足底側へ出て、内側足底神経の短母指屈筋に至る筋枝と交通していた。線維解析した結果、交通枝は外側足底神経由来の成分からなり、内側足底神経の短母指屈筋に至る筋枝と合流後に短母指屈筋に入ることが明らかになった。考察:以上の結果から、母指内転筋斜頭は3つの筋要素から構成され、短母指屈筋と近縁関係にある可能性が示唆された。とくに、浅層の内・外側2つの筋束は発生過程において別の要素であった可能性が高い。ヒト胎児の組織学的研究によりヒトの足底の筋の個体発生を調査したCihak(1969,1972)は、母指内転筋斜頭は3つの要素からなることを示唆している。しかし、今回のわれわれの所見は、母指内転筋斜頭の形態形成について、さらに短母指屈筋との関係についても考察する必要性があることを示している。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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