抄録
【はじめに】筆者は第37回理学療法学術大会において、137名の健常者を対象に、ストレッチングが感覚入力へおよぼす影響を調査し、10秒間のストレッチング施行後手掌面の感覚入力が向上した結果を報告した。今回は脳卒中片麻痺者を対象に、ストレッチングによる感覚入力の変化について検討し、若干の知見が得られたので報告する。【対象および方法】対象は本研究の主旨に同意した脳卒中片麻痺者31名、平均年齢は68.9±10.7歳であった。結果に影響をおよぼすと考えられる高次脳機能障害や痴呆症状、感覚脱失、手指屈曲拘縮を呈している者は除外した。 方法は、麻痺側手掌面のストレッチングを持続的に10秒間施行し、その前後の麻痺側手掌面の静的2点識別覚(2 Point Discrimination : 2PD)をスピアマン式触覚計にて測定した。2PDの測定肢位は背臥位において、基本的に麻痺側肩関節外転90度、外旋位、肘関節伸展位、前腕回内外中間位、手関節掌背屈中間位とし、上肢をベッド上に乗せた状態とした。しかし、痙縮により手指が屈曲傾向にある場合は、測定部位が表出する程度に軽度伸展させた。測定部位は手掌面中央部とし、第3中手骨を目安に長軸方向に測定した。手掌面のストレッチングは測定肢位より、他動的にゆっくりと手関節背屈と手指伸展を行い、可能な限り最大伸張した状態で10秒間保持した。またストレッチング施行中は、測定部位に触れないように注意した。統計学的処理は、ストレッチング前後の2PD値比較に対応のあるt-検定を用い、危険率5%を有意水準とした。【結果】麻痺側手掌面の2PDは、ストレッチング施行前は平均16.8±8.2mm、施行後は平均13.7±7.7mmであり有意差が認められた。ほとんどの症例でストレッチング施行後の2PD値は減少し、平均3.2mmの減少、最大で11mmの減少が認められた。【考察】手の運動器官と感覚器官は相互に関係しており、二者の機能が別々に使い分けることはほとんどないと言われている。臨床的には、麻痺側手の痙縮は、ストレッチングにより抑制され、運動機能向上に影響をおよぼすと考えられる。今回の結果より、ストレッチングは運動機能のみならず、感覚機能にも影響をおよぼしていることが示唆された。これは、手の痙縮が感覚受容器であるメルケル触盤などに影響をおよぼしていることが考えられた。 以上のことから、脳卒中片麻痺者の感覚障害に対するアプローチは、ストレッチングを施行することで、より効果的になることが示唆された。また、手掌面の痙縮により本来の2PD入力値を発揮できていない状態とも推察できたため、今後の2PD実測値として捉える必要性も考えられた。