抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺患者における麻痺側下肢の痙縮は、歩行等のADL自立の阻害因子となる。その治療は薬物療法や神経ブロックだけでなく、理学療法においても数々の治療手段があり、特に筋の持続的伸張は頻繁に利用されその効果が報告されている。我々は過去の関連学会において腓腹筋の痙縮に対する連続的他動運動の有用性を報告したが、持続的伸張との妥当性のある比較は不十分であった。そこで今回、足関節の他動的底背屈運動を自由に設定でき、足関節トルクを記録できる治療装置(足関節用Therapeutic Exercise Machine、以下足TEM)を用いて、腓腹筋の持続伸張と連続的他動運動が足関節トルクに及ぼす影響を比較したので、若干の考察を加え報告する。【対象】対象は脳卒中片麻痺患者3名(男性2名、女性1名、平均年齢61.3±5.6歳、発症後期間456±487日)であり、痙縮評価スケールModified Ashworth Scaleは2が2名、3が1名であった。【方法】安静背臥位膝関節伸展位にて足TEMに麻痺側足関節を装着し、治療A(最大背屈位において持続伸張・20Nm・15分)と治療B(最大背屈位から底屈45°・連続的他動運動・20Nm・10deg/sec・15分)の2種類の治療を行った。各治療の直前と直後で、評価(最大背屈位から底屈45°・連続的他動運動・20Nm・40deg/sec)を行い、5往復分の足関節背屈最大トルクと腓腹筋の表面筋電を測定した。足関節背屈最大トルクは、三元配置分散分析にて統計処理を行い、表面筋電はMEGA社製ME3000P8を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて導出し、PCにて積分値を算出した。なお、各治療は24時間以上の間隔を空け、治療順序は対象毎にランダムとした。【結果】平均足関節最大トルクは、治療後において治療Aでは22.3%、治療Bでは21.7%減少しており、ともに治療後で有意に減少した。(P<0.001)さらに治療Aの方が治療Bよりも有意に減少していた。(P<0.001)表面筋電測定により評価施行中の腓腹筋の筋活動電位は2例に認められ、1例は各治療後で積分値の減少を認め、他の1例では治療後の積分値が治療Aでは減少し、治療Bでは大きな変化を認めなかった。【考察】今回の実験により、治療A・治療Bとも足関節トルクの減少が見られた。治療Aの持続伸張は、Golgi腱器官-Ib線維興奮によりα運動ニューロンの興奮性が抑制されたことと、軟部組織の伸張による非反射性要素が改善し、足関節トルクの減少が生じたものと考えられる。一方、治療Bでの足関節トルク減少は、Ib抑制による効果が期待しにくいため持続伸張に比べ足関節トルクの減少が少なかったと思われた。今後、症例数を増やし、最大背屈位での持続伸張と連続的他動運動を合わせたプロトコルを導入するなど、痙縮緩和に対するさらなる検討を進めていきたい。