抄録
【目的】近年、呼吸器疾患患者における骨格筋機能障害が指摘され、筋生化学・運動生理学的観点からこれら障害について検討されている。しかし、近赤外分光法(NIRS)を用いて非侵襲的に局所筋の酸素動態を検討している報告はない。そこで今回、慢性呼吸不全患者を対象に低強度局所運動中の運動筋酸素動態の特性を明らかにすることを目的とした。【対象】慢性呼吸不全患者男性12名(疾患群)とした。基礎疾患は、肺気腫7名、肺結核後遺症5名で、全例在宅酸素療法を導入していた。また呼吸器疾患を有さない高齢者12名(高齢群)及び健常成人男性13名(若年群)をコントロール群とした。【方法】運動負荷は3分間の律動的ハンドグリップ運動(HG)とした。運動は利き手として、3秒に1回のリズムにて10%最大運動(10%HG)及び30%最大運動(30%HG)の2条件で実施した。この場合、経皮的動脈血酸素飽和度、NIRSによる酸素化ヘモグロビン(OxyHb)及び脱酸素化ヘモグロビン(DeoxyHb)を経時的に測定した。骨格筋血流の変化(FBFNIRS)は30秒間の50mmHgによる上腕加圧中の全組織ヘモグロビン量(OxyHb+DeoxyHb)の変化より算出した。骨格筋酸素利用の変化(VO2NIRS)は、30秒間の240mmHgによる上腕加圧のOxyHbとDeoxyHbの差異(OxyHb-DeoxyHb)より算出した。得られたFBFNIRS及びVO2NIRSについて、各測定条件(安静・10%HG・30%HG)ごとに3群間の比較検討を実施した。【結果】FBFNIRSは、疾患群において、他の2群と比較して安静条件では有意差が認められなかったが、10%HG条件では高齢群と比較して有意に低値を示し(p<0.05)、30%HG条件では若年群と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。VO2NIRSは、疾患群において安静及び30%HG条件では有意差が認められなかったが、10%HG条件では他の2群と比較して有意に高値を示した(p<0.05)。【考察】運動時には活動筋での酸素需要量が増加し、それに見合って運動筋血流が増加するが、運動の種類(静的か動的か)によって異なる。動的ハンドグリップ運動では、筋弛緩期に増加し、最大握力の25%から45%で最高値を示すことが報告されている。しかし、呼吸器疾患患者における運動筋への血流調節機構は未だ解明されておらず、また負荷強度の違いによる運動筋血流変化について検証した研究も少ない。本研究では、これら疾患患者における低強度運動での運動筋血流増加制限が明らかとなり、この結果は運動筋血流調節機構の障害を検討するうえで重要な結果であると考える。また10%HG運動では、運動中血流量増加が制限されるため、運動を継続するために運動筋での血液からの酸素抜き取りが増加し、運動筋への酸素利用が増加したものと考えられる。