理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: IO841
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循環器疾患
慢性維持透析患者における身体活動量と下肢筋力の関係について
*齊藤 正和松永 篤彦神谷 健太郎幸田 誠坂本 純子米沢 隆介赤堀 美智子高木 裕増田 卓吉田 煦
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キーワード: 透析, 身体活動量, 下肢筋力
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抄録
【背景と目的】慢性維持透析(HD)患者の最高酸素摂取量は一般に15-20ml/kg/minであり、同年代の健常者の約50%に低下するといわれている。この運動耐容能の低下は、HD患者の身体活動量を低下させ運動機能を減弱させる要因となっている。さらに、HD患者では、腎性貧血が重症化すると酸素供給量の低下と末梢組織での酸素利用効率の悪化によって、運動機能はより低下すると考えられる。しかし、HD患者の貧血の程度を一定に保った状態で、身体活動量と運動機能の関係を検討した報告は極めて少ない。そこで、本研究は腎性貧血の影響を出来るだけ一定にした状態で、HD患者の身体活動量と下肢筋力との関係について検討した。【対象と方法】通院にて週3回の維持透析を受けているHD患者25例(男6例、女19例、平均年齢63±12歳)で、平均身長154.7±5.8cm、dry weightにおける平均体重48.9±7.9kg、平均透析期間9.9±7.5年であった。また、貧血の程度は、透析前のヘマトクリット値(Ht)30.2±2.8%、ヘモグロビン値(Hb)9.9±0.8g/dlであった。身体活動量(kcal/day)は、各症例に多メモリー加速度計測装置付歩数計(ライフコーダ、スズケン)を週日5日間連続して装着し、その平均値を用いた。下肢筋力の測定は、Hand-held dynamometer(μTas、アニマ)を使用し、膝関節90度屈曲位になるように下腿部にセンサーを取り付け、ベルトでベッドの脚に固定した後、等尺性膝伸展筋力を左右3回ずつ測定して、左右の最大値の平均を体重で除した値(体重比)を算出した。また、同年代の健常人との比較のため、Richardらの報告による年代別膝伸展筋力の標準値との比を算出した。身体活動量と膝伸展筋力体重比の関係はPeasonの相関係数を用いて解析し、有意水準はP<0.05とした。【結果】身体活動量は、1450±180 kcal/dayであった。一方、膝伸展筋力の体重比は 42.4±14.6%で、健常成人に比べHD患者の膝伸展筋力は84.3%と低値を示した。また、身体活動量と膝伸展筋力体重比は有意な正の相関を示した(r=0.57、P<0.05)。【考察】HD患者では腎性貧血が進行するため、輸血や薬物による貧血治療を定期的に繰り返すが、重症貧血が持続すると組織の酸素代謝異常によって身体活動が抑制される。本研究は、貧血の進行による身体活動量への影響を除外するため、対象を軽症貧血のHD患者に限定した。すると、本研究の対象患者において、下肢筋力は健常成人に比べ低下し、下肢筋力の増強によって身体活動量が改善する可能性が示された。HD患者の身体活動量を規定する因子のひとつとして下肢筋力が示され、腎性貧血の改善ばかりでなく、下肢筋力の維持・向上を目的とした運動療法の介入がQOLの改善に重要と考えられた。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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