抄録
【はじめに】内側股継手付き長下肢装具(MSH-KAFO)は、対麻痺者の起立動作を再建するのに有用であり、ハイブリッドFESによる歩行再建にも用いられている。MSHにはWalkabout、Primewalk、内旋機能付Primewalkなど各種あり、対麻痺者の歩行練習に用いる場合には、MSHなど歩行条件の相違が運動負荷量に及ぼす影響を考慮してプログラムを立案する必要がある。今回、下位胸髄完全対麻痺者のハイブリッドFESを用いた各種歩行におけるエネルギーコストを測定したので報告する。【対象および方法】対象は、22歳の男性で、T12完全対麻痺者である。受傷後3.5年、治療的電気刺激開始後3年を経過し、経皮的埋め込み電極の刺入部位は、両側の大腿神経、坐骨神経などで総計10本であった。MSHの使用期間は、Walkaboutで2年、Primewalkで1年であった。歩行能力達成レベルは、両側アームクラッチを用いて自力で平地歩行が可能である。FES装置はAkita system IIで、60m区間の平らな床面をMSH-KAFOで交互歩行させた。使用した自助具は、L型歩行器、ボンジュール杖とし、歩行条件を床面における最大努力下のa)Walkabout+クラッチ(FESなし)、b)Walkabout+Walker(FESなし)、c)Walkabout+Walker(FESあり)、床面における快適速度下のd) Walkabout+Walker(FESなし)、e)Walkabout+Walker(FESあり)、f) Primewalk+Walker(FESなし)、g)Primewalk+Walker(FESあり)とした。さらにトレッドミル上時速1km/hにおけるh) Primewalk(FESあり)、i) 内旋機能付Primewalk(FESあり)の酸素消費量も計測した。酸素消費量はK4b2(Cosmed, Italy)を用いてbreath-by-breath法で計測した。各歩行条件におけるエネルギーコストを算出し、各7回試行分の平均値の差をWilcoxon検定を用いて検討し、危険率5%以下を有意差ありとした。【結果】最大努力下では、a)、b)、c)の順にエネルギーコストが有意に大きく、c)はa)の1/2以下であった。快適歩行下では、条件g)で最もエネルギーコストが低く、FES刺激下ではPrimewalkのほうが有意に低かった。一方、トレッドミル上では条件h)、i)間で有意差はなかった。【考察】Primewalkは、Walkaboutが生理的な股関節の位置から乖離しているのを補うために才藤栄一氏より開発されたものである。また、内旋機能付Primewalkも同氏により開発されたものであり、立脚側股関節が約15度の内旋を許容するものである。今回の結果から、下位胸髄損傷者のハイブリッドFES歩行練習において段階的に運動負荷量を増大させるプログラム作成にあたっては、Primewalkを第一選択とするべきであると考えられる。