抄録
【はじめに】腹部外科疾患の術後は術創の疼痛、低栄養、筋力低下、耐久性低下、基本動作困難などによりADLレベル低下を招く。当院理学療法部門における外科疾患患者数は、脳神経外科、整形外科、内科に続いて4番目であり、約1割を占めている。その中で特に腹部術後疾患が多い。そこで腹部外科術後患者の理学療法の現状について調査したので報告する。【対象と方法】2001年4月から2002年7月までに当院で腹部外科手術後に理学療法を施行した23例のうち、明らかに理学療法開始が遅れた1例を除いた22例(76.0±7.2歳)を対象とした。診療記録から後方視的に以下の項目を抽出し検討した。すなわち、責任臓器、入院日、手術日、理学療法開始日、理学療法開始時FIM、退院時FIM、退院時転帰(歩行自立、寝たきり、死亡)である。また開始時FIM運動項目得点の中央値(60点)で低値群、高値群の2群に分類し、退院時転帰は歩行自立群(以下、良好群)と寝たきり・死亡群(以下、不良群)に分類した。統計学的検討には統計解析ソフト「Stats View 5.0」を用いた。【結果】転帰良好群19例、不良群3例であった。2群間に年齢、性別、入院から理学療法開始までの病日、手術から理学療法開始までの病日、開始時FIM認知項目得点に有意差は認めなかった。開始時FIM運動および合計得点は、良好群60.5±29.4点、91.8±33.1点、不良群29.0±18.3点、54.7±26.6点と良好群が高値であった(p<0.1)。また、開始時FIM運動項目得点高値群は退院時転帰が全て良好であった(χ2=4.2、p<0.05)。【考察】高齢腹部外科手術後患者において、転帰良好群は不良群に比べ理学療法開始時FIM運動および合計得点が高値であることが示された。また、開始時FIM運動得点60点以上が歩行自立の予測因子になりうることが示唆された。これより、理学療法開始時のADLが良好なほど歩行自立につながると考えられる。 一方、転帰良好群の中で開始時移動能力が著しく障害されていた症例を4症例(21%)認めた。この4症例は開始時寝たきり状態であったが、歩行自立で自宅退院している。これは術前の歩行状態が良かったことに加え、賀来が述べているように術後の筋力強化訓練や歩行訓練、下肢エルゴメーターなどの理学療法が、消化器系の回復、機能・能力障害改善もたらす一因であることを示唆する。【まとめ】2001年4月から2002年7月までの当院腹部外科手術後患者の理学療法の現状を後方視的に調査した。高齢腹部外科手術後患者において、理学療法開始時のADLが良好なほど歩行自立の転帰をたどっていることが示された。回復期リハビリテーション対象疾患である腹部外科手術後患者に対する理学療法のエビデンスを蓄積することが今後の課題である。