抄録
【目的】スポーツ活動において女性は男性に対し非接触型の膝前十字靱帯(以下ACL)損傷の発生率が高い。これらの損傷はカッティングやジャンプ着地などの動作でしばしば発生する。ACL損傷は膝関節伸展位0-45°で起こることが多く、この範囲では大腿四頭筋の活動によって脛骨が前方に移動し、ACLにストレスが加わると考えられており、女性はハムストリングに対して大腿四頭筋の活動量が高いことが一要因として報告されている。本研究の目的は着地動作時に男女間で膝屈曲角度および大腿四頭筋とハムストリングの活動を比較することである。
【方法】対象は膝関節に傷害の既往のない健康な男性7名(平均年齢22.1±0.6歳、身長169.5±4.8cm、体重61.7±7.7kg)、女性9名(平均年齢21.7±1.4歳、身長157.3±3.5cm、体重52.7±3.3kg)だった。ジャンプ動作は最大努力で上方に両脚で跳躍し、左脚で着地した。筋電図は内側広筋(VM)、外側広筋(VL)、大腿二頭筋(BF)、半膜様筋(SM)の4筋から導出した。同時に左側方から高速度CCDカメラで動作を記録し、着地時の膝屈曲角度を求めた。筋電図は生波形から時定数20msにてroot mean square value(RMS)に変換した。各筋のRMSは最大随意収縮時の活動量(安定した1秒間のRMSの平均値)に対する割合(%MVC)として表した。VM、VLの%MVCを平均し、大腿四頭筋の活動量とした。同様にBF、SMの%MVCを平均してハムストリングの活動量とした。また、膝屈曲角度15-50°までRMSを5°ごとに平均し、角度増加に伴う筋活動量の変化および大腿四頭筋に対するハムストリングの活動量比(H/Q比)を検討した。男女差の検定には二元配置分散分析および対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。
【結果】着地時の膝屈曲角度は男性13.2±5.5°、女性15.0±6.7°であり男女間に差はみられなかった。大腿四頭筋の活動量は女性が有意に高い値を示し(p<0.001)、ハムストリングの活動量は女性が有意に低い値を示した(p<0.05)。大腿四頭筋に対するハムストリングの活動量比は、膝屈曲15°で女性が0.29、男性は0.55であり、女性の方が男性に対して有意に低い値を示した(p<0.05)。
【考察】着地初期において女性のハムストリングの活動量が低く、大腿四頭筋の活動量が高いことにより、大腿四頭筋に対するハムストリングの活動量比に男女間で大きな差がみられた。Colbyら(2000)はランニング、カッティング、ジャンプ着地動作などにおいて、膝関節伸展域で大腿四頭筋の遠心性活動が高いこと、さらにハムストリングの活動が低いときには大きな脛骨の前方移動が生じ,ACLにストレスが加わる恐れがあることが報告しており、本研究においても同様のことが推察された。今回は筋電図と高速度カメラを用いることによって膝関節伸展域での大腿四頭筋とハムストリングの筋活動を5°ごとに観察することができ、新たな知見が得られた。これらのことを今後のACL損傷の治療や予防に活かしていきたい。