抄録
はじめに;下肢筋力の著しい低下を示した症例に対する歩行機能の再建は、徒手的治療手技と合わせ斜面台や下肢装具の処方が行われるが、リフト機能を用いた歩行介助装置も選択肢の一つであるが価格面、実用性が乏しい。そこでこのたび簡易な機構で歩行時の下肢支持力をアシストする装置を共同開発したので報告する。装置の概要;本装置は、ベッド周囲での患者の移動を介助するリフト装置をベースとして開発された。本装置は幅2m35cm、奥行き2m20cm、高さ2m35cmであり、アシスト量を調整するウエート(5kgから60kg)を収納したタワーと患者を牽引するアーム部および、それを支える2本の支柱より構成される。患者はアーム部に内蔵されたスライダー機構より伸びたロープの先のハンガーによりハーネスで牽引される。動作モードは、通常の電動リフトとして利用するリフトモードと、設定した牽引力で常に吊り下げるアシストモードの2種類がある。症例;症例はC1からC2レベルに存在した腫瘍の除去と頚椎後縦靭帯骨化症治療を目的として腫瘍摘出術および脊柱管拡大術が本年3月に施行された患者である。術後より躯幹から両下肢にかけての弛緩性痳痺を呈し理学療法が処方された。開始時は、両上肢筋力は3から4であったが下肢は右足趾の伸展がわずかに可能の他は弛緩性の痳痺を呈していた。4月に入り下肢筋力は1から2になり全身状態が安定したので斜面台を開始するが、立位・端坐位とも自立できなかった。この時期、坐位バランス訓練は歩行介助装置の転倒防止機能を利用して行った。この機能は、ある程度の加速度でロープが引っ張られるとブレーキがかかる機構である。5月中旬よりは、右膝の反射的屈曲を抑制する長下肢装具を着用し45kgのアシストモードで平行棒内起立練習を行った。6月の時点での筋力は上肢3から4、下肢2から4であり依然45kgの牽引力のもと起立動作、立位バランスを継続した。その後6月には牽引力は35kg、8月には25kgとなり介助しての歩行が可能となった。また牽引力が20kgとなった時点で長下肢装具を除去した。11月中旬での筋力は両上肢4、下肢3から4となり、歩行能力は介助装置なしで平行棒内4点歩行が可能となった。まとめ;対麻痺患者など重度の筋力低下を伴う症例では、従来の方法では装具を着用してもセラピストへの身体的負担が大きい。また、リフト機構のみの介助装置では、患者は動作の中で有効に筋力を発揮できなかった。本装置の利点は、セラピストの介助負担を大幅に軽減するとともに、早期からの起立・歩行練習を可能とするものであり、また坐位バランスやプッシュアップ練習への応用も可能である。