抄録
【はじめに】われわれは、これまでに高齢者における静的立位平衡機能について研究を行い、下肢関節に対する運動効果が平衡機能に与える影響について検討し、足関節を大きく関与させた運動が平衡機能を安定化させる因子であることを報告した。本研究は、足関節筋力が平衡機能に影響を及ぼすかどうかを検討するため、まず健常人を対象に足関節筋群を随意的に疲労させ重心動揺計にて測定を行い検討したので報告する。【対象・方法】対象は、健常人女性13名(平均年齢19.8±0.6歳)で、使用機器は重心動揺計(グラビコーダGS3000・アニマ社製、以下GS)と多用途筋機能評価訓練装置(BIODEX SYSTEMS3・酒井医療社製、以下BS3)であった。測定方法として、最初にGSにて重心動揺(開眼30秒:総軌跡長・単位面積軌跡長)を測定し、その後BS3にて対象筋(右側前脛骨筋・下腿三頭筋)を最大等尺性筋力の50%になるまで疲労させた直後に重心動揺を測定した。さらに、経時的に5・15分後も重心動揺と対象筋の最大筋力を測定した。なお、最大筋力の測定は等尺性収縮(足関節中間位)で行った。但し、測定は疲労を考慮し、1日1回行い、各筋のそれぞれの経時的疲労が重複しないように次の測定まで3日間以上あけて測定した。統計処理は、SPSS Ver10.1を使用し、対応のあるt検定を行い、有意水準は5%以下とした。【結果】前脛骨筋・下腿三頭筋の筋力(Nm/kg)は、測定前(36.7±9.2・140.0±63.3)・直後(18.3±4.6・70.0±31.6)・5分後(29.3±10.5・147.5±75.1)・15分後(31.4±10.9・155.0±68.7)であり、前脛骨筋においては5分後と15分後、下腿三頭筋においては測定前と5分後、5分後と15分後以外すべて有意差が認められた。総軌跡長(cm)において、前脛骨筋に有意差は認められなかったが、下腿三頭筋では、測定前(32.4±5.4)と測定直後(38.2±8.7)、測定直後と測定5分後(32.7±8.4)・15分後(32.1±5.7)に有意差が認められた。単位面積軌跡長においては、前脛骨筋・下腿三頭筋ともに有意差が認められなかった。【考察】測定前に比べ測定直後、すなわち下腿三頭筋の50%筋疲労に伴い総軌跡長が有意に増加し、測定5分後以降の筋疲労の回復とともに総軌跡長は測定前の状態に回復していた。このことは下腿三頭筋の筋力低下が平衡機能を低下させたことを示唆している。われわれはこれまでの研究において、足関節を大きく関与させた運動が平衡機能を安定化させる因子として報告してきた。その運動に関与している筋は下腿三頭筋であることと今回の結果から、立位平衡機能にとって下腿三頭筋が重要な役割を果たしていることが推察された。単位面積軌跡長においては、前脛骨筋・下腿三頭筋ともに何ら傾向が認められず、筋力低下が固有受容器姿勢制御機構に影響を及ぼさないことが示唆された。 本研究結果から下腿三頭筋の筋力低下が立位重心動揺に影響することが明らかになった。今後、平衡機能を低下させる筋群を特定できれば、高齢者の転倒予防につながる筋力トレーニング方法が提示できる可能性がある。