抄録
【目的】立位をとった被検者に後方から他動的外力(外力)を加え,立位バランスを評価する指標として腓腹筋の活動開始時間を測定する時,肩・腰のどちらを押しても,また押す部位の提示の有無に関わらず大きな差はない(石田ら,2001;2002)。ところで,外力を加えるタイミングを知らせていれば活動開始時間は短縮する可能性がある。そこで外力を加えるタイミングを予告するかしないかで,活動開始時間に差が生じるか検討することを目的に実験を行った。【対象と方法】対象は健常男性10名(平均年齢24.4±3.5歳)である。測定肢は立位となっている被検者を後方から強く押した時に踏み出さずに残った側の下肢とし,腓腹筋外側頭(GL)・内側頭(GM)に表面電極を貼り付けた。被検者に開眼で上肢を自然に垂らした立位をとらせて,外力を加えられてもそのまま立位を保持するよう指示した。外力は,被検者の肩(左右肩峰の中間)または腰(左右腸骨稜の中間)を後方から検者の手掌面で押すことで加える。外力は(1)予告外力;検者がメトロノーム(60回/分)に合わせて「3,2,1,はい」とカウントダウンしつつ加える方法と,(2)予告なし外力;予告しないで加える方法とした。更に外力を加える部位を1)肩;事前に肩のみを押すと被検者に知らせて加える,2)腰;腰のみを押すと知らせて加える,3)選択;肩・腰のどちらかを押すとだけ知らせて検者がランダムに加える,として,これらの全ての組み合わせで外力を加えた。検者の手掌面にはON-OFFスイッチを貼り付けておき,外力を加えた時間を記録した。GL・GMの筋電波形とスイッチの電位をsampling rate 2kHzでパソコンに取り込み,波形処理ソフトで再現した。GL・GMの活動開始時間は,外力を加えてから安静立位時の最大振幅値を越えた時間とした。GL・GMごと,活動開始時間に差があるか反復測定の多元配置分散分析で解析した。【結果】全被検者における活動開始時間の平均値は予告外力で肩[GL;42.2ms,GM;41.9ms],腰[GL;39.7ms,GM;40.6ms],選択[GL;45.4ms,GM;46.8ms],予告なし外力では肩[GL;44.0ms,GM;43.3ms],腰[GL;45.9ms,GM;46.6ms],選択[GL;54.2ms,GM;47.9ms]であった。検定の結果,予告外力と予告なし外力で有意な差があるといえなかった(GL;p=0.2,GM;p=0.4)。しかし,平均値をみるとGL・GMとも予告なし外力で遅延する傾向にあった。また選択の条件では予告外力でばらつきが小さくなる傾向があった。【考察】外力を加えるタイミングの有無で有意な差は認めなかったが,平均やばらつきは変化する傾向にあったので,わずかながら予測の影響は存在すると考えた。どちらかといえば姿勢反応としての下肢または全身の連鎖的な筋活動順序や,それらの筋活動量に影響しているかもしれない。臨床における立位バランス評価に応用するためには実験設定を含めて今後,この点を検討していく余地がある。