抄録
【はじめに】臨床において,立位で胸椎後彎し,重心が後方に変位している症例に対し,踵部を補高すると,脊柱伸展及び肩関節挙上角度が改善する印象をうける。そこで我々は,足関節の角度変化がどのように立位の脊柱,骨盤のアライメントに影響するのか,またその結果が立位肩関節挙上にいかなる影響を及ぼすのかという事を立位の姿勢タイプ別に検討したので報告する。【対象及び方法】対象は,健常成人24名(男性10名,女性14名),平均年齢22.0(18-26)歳,身長と体重の平均値±標準偏差は164.9±6.5cm,58.5±10.3kgであった。測定肢位は自然立位及び,自然立位での肩関節挙上位(以下挙上位)の2肢位で,それぞれ足関節0度と10度の傾斜台を用いた10度底屈位と10度背屈位の3条件とした。立位保持安定後,肩関節挙上角度,骨盤傾斜角度をゴニオメータにて計測した。また,矢状面での足圧中心位置(以下COP)をグラビコーダ(GS-11,アニマ社製)にて20秒間測定し,引き続き,胸椎,腰椎の彎曲角度及び体幹の傾斜角をスパイマルマウス(インデックス社製)にて計測した。なお,測定は5回試行し,その中3回の平均値を採用した。姿勢分類はデジタルカメラにて撮影した画像より,上半身質量中心点(第7から第9胸椎高位,剣状突起付近)が下半身質量中心点(大腿の中点と中上2/3の間)よりも前方の群(以下前方群),後方の群(以下後方群),中央の群(以下中央群)の3群に分類した。得られたデータを3群の姿勢別に2肢位間及び3条件間で比較した。なお,統計処理にはSPSSを使用し,二元配置分散分析,多重比較検定,t検定を実施し,危険率5%未満を有意とした。【結果】姿勢は前方群10名,後方群7名,中央群7名に分類できた。全群にて,3条件間で肩関節挙上角度は変化しなかった。後方群では,0度と比較し底屈位でCOPは有意に前方移動し,骨盤は有意に前傾した。また,0度と比較し0度での挙上位では腰椎は有意に伸展し,骨盤は有意に前傾したが,底屈位と底屈位での挙上位を比較すると腰椎及び骨盤のアライメントは変化しなかった。前方群,中央群では3条件間でCOP及び脊柱,骨盤のアライメントは変化しなかった。 【考察】結果より,後方群では底屈位,すなわち補高を施した条件により骨盤のアライメントとCOP位置が変化したが,肩関節挙上角度は変化しなかった。これは,対象が健常成人であり,3条件のどの姿勢でも肩関節挙上時に必要な胸椎,腰椎の運動が行えたためと推察する。また,後方群では立位での骨盤のアライメント変化が肩関節挙上時の骨盤と腰椎の運動に影響を及ぼしたと考えるが,胸椎の運動は変化せず,今回の実験からでは肩関節挙上時における足関節角度変化が胸椎の運動,肩関節挙上角度の変化をもたらすか否かについては言及できない。しかしながら,はじめにで述べた症例では,胸椎のアライメントが変化せずとも,補高により胸椎伸展が十分できる肢位に姿勢が変化すれば,肩関節挙上時の胸椎伸展運動,さらには肩関節挙上角度も変化するのではないかと考える。また,後方群のみ変化した事は興味深い。今後その事を含め検討していきたい。