理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: NO549
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測定・評価
高次機能からみた高齢者の転倒要因について
*木俣 信治市村 幸盛高橋 昭彦
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キーワード: 高齢者, 転倒, 高次機能
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抄録

【はじめに】高齢者の転倒に関与する要因として,加齢に伴う各種感覚系,筋骨格系などの機能低下を挙げている多くの研究がある.Lordらは静的立位姿勢制御における各種感覚機能の相対的貢献度を年代別に調査し,65歳以上の高齢者では体性感覚系が最も重要な感覚であると結論づけている.しかしながら,高齢者の転倒は住み慣れた自室あるいは,起床直後など注意力が比較的散漫な時間帯に多く発生していることから,転倒に及ぼす注意など高次機能の関与も少なくないことが推測される.今回,高齢者を対象に高次機能が転倒に及ぼす影響を明らかにする目的で,注意要求課題を用い静的立位姿勢制御時の重心動揺から検討したので報告する.【対象および方法】対象は健常高齢者15名であり,問診によって一年以内の転倒の既往の有無により2群に分類した.転倒の既往を有するものを転倒群(8名,65.1±3.7歳),既往を有さないものを非転倒群(7名,66.7±1.2歳)とした.全ての被験者には研究の趣旨を説明し同意を得た.また整形外科的,神経学的疾患の既往のないことを確認した.測定は重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダーG-6100)にて行った.測定時間は20秒としサンプリングタイムは20msecとした.姿勢は両踵部間8cm,開脚60°とし,上肢は胸部前で交差させた状態とした.課題としては単一の注意要求課題と同時発生の注意要求課題を重心動揺測定中に与えた.単一の注意要求課題は,出来るだけ左右対称で立つように指示を与えた.このとき視覚に対する指示は与えなかった.同時発生の注意要求課題は,上記の課題にStroop testを加えた.このtestはスクリーンに映し出された25文字の色と漢字が一致しない色つき文字をその漢字ではなく書かれた色で答えさせる課題である.検討項目として転倒群,非転倒群それぞれの単一の注意要求課題と同時発生の注意要求課題遂行時の重心動揺距離(LNG)を用いた.両群の各課題間の比較には対応のあるt-testを用いた.有意水準は5%とした.【結果】転倒群での単一の注意要求課題のLNGは224.9±40.2mmであり,同時発生の注意要求課題のLNGは313.8±100.2mmであり課題の違いによって有意な差を認めた(p<0.05).非転倒群の単一の注意要求課題のLNGは160.0±25.3mmであり,同時発生の注意要求課題のLNGは226.6±80.8mmであり課題の違いによる有意な差を認めなかった.【考察】人間は環境から受ける感覚情報を受動的に処理しているのではなく,意味のある情報に注意を向け選択的に抽出することで環境との相互関係を図っている.本研究において転倒群では単一の注意要求課題と比較して同時発生の注意要求課題の重心動揺が有意に増大していた.このことから高齢者の転倒の要因として身体機能の低下のみならず,加齢に伴う高次機能の低下が関与していることが確認された.転倒の予防における理学療法にはバイオメカニカルな観点からだけではなく,注意などの高次機能を視野に入れてアプローチしていく必要性が示唆された.

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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