抄録
【目的】我々は,第37回日本理学療法学術大会において,水平面・垂直面における母趾の「支持作用」と第2から5趾の「中心に戻す作用」について報告した.しかし,主たる結果が推察の範囲であったため,第2報では母趾の「支持作用」に焦点を絞り,評価方法を再検討し,動的姿勢制御能との関係を検討した.【対象と方法】対象は,健常若年成人32名(平均±標準偏差:年齢24.3±4.8歳,身長165.8±7.2cm,体重58.8±8.3kg)である.母趾機能の評価として,立位での把持筋力と圧迫筋力を測定した.動的姿勢制御能の評価と,実際の動作時にどれだけ母趾機能を発揮できているかを検討するため,前方リーチ距離と同時に母趾にかかる支持力を測定し,それぞれの体重,身長にて補正した(体重比母趾把持筋力:以下TGP,体重比母趾圧迫筋力:以下TPP,身長比前方リーチ距離:以下FR距離,FR時体重比母趾支持力:以下FR支持力). TGPの測定は,手指握力計を足趾用に改良して用い,TPPとFR支持力の測定は,手指ピンチ力計を足趾用に応用して用いた.各測定ともに3回の測定値の最大値を代表値とし,信頼性を検討するため,級内相関係数,測定回数を要因とする一元配置の分散分析を行った.また,TGP,TPP,FR支持力とFR距離の相関関係にはピアソンの相関関係を用いた.各統計処理において,有意水準は5%未満とした.【結果と考察】全計測の信頼性は,Kappa係数の指標において優秀の評価(ICC0.9以上)であり,また,測定回数の群間に有意差は認められず,信頼性のある測定方法といえる.TGPは第1報の坐位での値よりも,立位での値の方が2から4%強く発揮しており,足底から入力される荷重感覚が増加した影響であると推察した.次に,動的姿勢制御能を示すといわれているFR距離とそれぞれの筋力との関係を検討した.TGPは右足よりも左足の方が高い相関係数を示し,左足趾把持筋力が動的姿勢制御能を左右する因子として挙げている馬場らの報告からも,その重要性が示唆されたが,FR距離との関係は正の相関傾向に留まった(r=0.09から0.43).それに比べ,TPPとFR距離は有意に正の相関関係を認めたことから(r=0.47から0.62,p<0.05),靴を履く習慣が日常的となった現代の生活では,足趾で地面を把持することよりも,地面を圧すことのほうが日常的であり,動的姿勢制御能を予測する1つの要素として圧迫筋力を評価する意義があると考察した.更に,実際の動作でどれだけ母趾の機能を発揮できているのかを検討するためFR支持力とFR距離との関係を検討した.男性,女性ともにTPPよりも,FR支持力とFR距離との相関係数の方が高い値を示していることから(r=0.79から0.92,p<0.01),立位での筋力測定よりも,実際の動作において,どれだけ前方への荷重が母趾により支持できるかが重要であることが示唆された.最後に,手指ピンチ力計を用いての測定は,実際の動作時にも応用できることなどから,臨床における簡便な足趾機能評価法の一つとして考えられる.