抄録
【はじめに】Beasley WC(1960)らは,ポリオ患者を対象として,徒手筋力検査(MMT)と等尺性筋力を測定し,膝伸展筋のGrade5,4,3の筋力値はそれぞれ正常値の約53%,42%,9%に相当することを明らかにした。そして,MMTのGrade5が必ずしも正常な筋力を反映する数値ではないこと,またGrade3が正常筋力の50%よりもはるかに低値であることを提唱した。しかし,加齢や廃用性変化によって筋力低下を生じた高齢者においても,同様の傾向が認められるか否かについては未だ明らかとなっていない。そこで今回は,高齢者における膝伸展筋MMT値と等尺性筋力の関連について検討した。【対象と方法】対象は当院の入院および外来患者 70名(男性24名,女性46名)の128脚で,年齢は76.6±8.9歳である。疾患の内訳は整形外科疾患56例、脳血管疾患4例,内科疾患7例,その他3例であった。なお,膝関節や下腿骨に整形外科的問題を有する患者,運動麻痺を有する脚は対象から除外した。筋力測定に際しては,まずMMTを臨床経験3年目の一人の理学療法士が実施し,次いで等尺性膝伸展筋力を測定した。MMTは,Grade3から3+,4-,4,4+,5-,5の7段階に分類した。筋力測定にはアニマ社製μTasMT-1を用い,端座位下腿下垂位で測定を実施した。5秒間の最大努力による測定を2回実施し,最大値を採用した。そして得られた実測値を体重で除した値(体重比),同世代健常者の平均値で実測値を除した値(健常比),さらに20代健常者体重比で体重比を除した値(20歳代比)を求めた。【結果と考察】MMTのGrade間で,年齢には有意差を認めなかった。等尺性筋力の実測値はGrade3から3+,4-,4,4+,5-,5の順に,それぞれ6.3,11.0,13.1,16.9,22.5,20.1,25.3kgで,Gradeの上昇とともに筋力は有意に上昇した。筋力体重比も同様でGradeの上昇とともに筋力は有意に上昇した。健常比はGrade3から順に,それぞれ28.0,44.0,57.8,69.9,75.6,88.4,98.0%であった。MMT5の筋力はほぼ同世代健常値と同等レベルにあり,その他のGradeもBeasleyらの先行研究よりも明らかに高値であった。20歳代比は,Grade3から順に,それぞれ19.5,28.0,37.0,48.0,48.2,53.6,60.5%であり,最も平均筋力が高い年代と比較した場合,高齢患者におけるMMT5は必ずしも高い筋力水準ではなかった。 以上のことから,Beasleyらの報告と異なり,高齢患者におけるMMT値は,同世代高齢者の筋力を比較的妥当に反映しているものと考えられた。