抄録
【はじめに】日常生活において物を持ち上げるという動作(以下、リフティング)があり,臨床的にも腰痛症患者に対し,その生活指導が行われている。しかし,その際重量負荷と体幹筋筋活動の関連性についての報告は少ない。今回,リフティング動作時における体幹筋筋活動と重量負荷との関連性について筋電図学的に分析し,若干の知見を得たので報告する。【対象】対象は整形外科,神経学的に問題のない健常成人5名(男性4名,女性1名)両側10例,平均年齢30.6±4.8歳であった。【方法】測定肢位は立位より体幹前傾30度,膝関節屈曲60度とし,両上肢を下垂した位置に重量負荷の高さを設定した。 重量負荷は体重の5%,10%,15%,20%,25%とし,2回ずつ測定した。測定時間は3秒間とした。 測定筋は腹直筋,内外腹斜筋重層部位,多裂筋,腸肋筋とした。筋電計はマイオシステム(NORAXON社製)を用いた。測定肢位(重量負荷無し)での各筋の筋積分値を基準とし,重量負荷時の体幹筋の筋活動を筋積分値相対値として求めた。重量負荷に対する体幹筋筋活動の特徴について分析を行った。【結果】腹筋群(腹直筋,内外腹斜筋重層部位)では,20%負荷において5%,10%負荷よりも有意に筋活動が増加した(p<0.05)。腰背筋群(多裂筋,腸肋筋)では,15%負荷において5%負荷よりも有意に筋活動が増加した(p<0.05)。【考察】リフティング肢位は重量負荷の増大によって体幹のみでなく同時に骨盤にも前傾モーメントが生じる。本研究結果において多裂筋,腸肋筋の筋活動は体重の15%以上の負荷により有意に増大した。これは,本研究での測定肢位を体幹前傾30度と設定したため,腰背筋群の筋活動の臨界点である45度に満たない肢位であることが要因である。腹直筋,内外腹斜筋重層部位の筋活動は,体重の20%以上の負荷により有意に増大した。このように重量負荷が増大した場合は,腰背筋の筋活動だけでなく腹筋群の活動性を高めることで腹腔内圧を上昇させて姿勢保持することが考えられる。この体幹前傾姿勢保持における腹筋群の働きは,体幹前傾時に作用する体幹前傾モーメントの制御だけでなく,骨盤前傾モーメントに対する制御にも関与することがわかった。今回の結果より,腹筋群が筋力低下しているとされる腰痛症患者へのリフティング動作指導において,体重の20%以上の負荷を持ち上げる場合,腰背筋群の筋活動に加えて腹筋群の筋活動も評価する必要性があると示唆された。