理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PP176
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地域リハビリテーション
公的介護保険が患者の身体・心理面および介護者の介護負担度に与える影響
*北浜 伸介西村 敦中平 剛志徳原 尚人日高 正巳武政 誠一嶋田 智明
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抄録
【はじめに】自立支援、家族介護負担の軽減、効率的かつ公平な制度の確立、利用者および介護者本意の制度導入を目的として2000年4月から公的介護保険制度が開始され、2年が経過した。現在、2003年4月からの介護報酬の見直しについて議論されているところであるが、同時に、介護保険制度によって、要介護者の身体面、心理面ならびに家族介護者の介護負担感にどのような効果をもたらしているのかという効果検証も求められつつある。そこで今回、介護保険制度施行前と2年後の時点における要介護者の身体機能、心理面および家族介護者の介護負担感を調査し、実際に介護保険制度が対象者の身体機能、心理面および介護者の介護負担感にどのように影響しているのかを分析し、考察を加えたので報告する。【対象と方法】初回調査は介護保険施行前に病院に外来通院および入院している脳卒中片麻痺患者(以下、要介護者)で、重度の痴呆ならび意識障害の認められない24名(男性15名、女性9名)とその介護者の24名(男性8名、女性16名)を対象として行った。そして、そのうち死亡した3名を除いた要介護者21名(男性13名、女性8名)とその介護者21名(男性7名、女性14名)を二回目の調査対象として調査を実施した。調査内容としては要介護者に対して機能的自立尺度(Functional Independence Measure;FIM)、生活に対する主観的満足感(PGCモラールスケール;PGC)を調査し、介護者に対してはZaritの介護負担度尺度を用いた調査を実施した。統計的検討としては対応のあるt検定ならびにspearmanの順位相関係数を用いた。【結果】介護保険サービス利用の有無による2群間の比較においては、要介護者の心理面については、利用している群の満足度が他方に比べて有意に高かった(p<0.05)。また、家族介護者の介護負担感については、利用している群の方が有意に低い値を示した(p<0.05)。しかしながら、身体機能面においては有意差が認められなかった。また、介護保険制度開始前後を比較してみると、要介護者の身体機能面の回復がみられるほど介護者の介護負担感が軽減されているという相関関係を示した。【考察】介護保険制度下の介護サービスの利用によって、要介護者の身体機能面での変化はあまりみられなかったにも関わらず、要介護者の主観的満足感の高まりを認め、介護者の心理的負担の軽減も認められた。このことは要介護者の介護の必要度には大きな変化がみられなくても、その介護の提供のあり方に変化がみられたことより、介護保険制度の基本理念の一つである介護の社会化の一端が窺えるものではないかと考える。さらに、要介護者の身体機能面と介護者の心理面の変化の間にも関係が認められたことから、我々理学療法士は要介護者の機能レベル向上を目的としたアプローチを検討していくことで、要介護者ならびに介護者の心理的側面に対するより効果的なアプローチも可能になるのではないかと考える。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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