抄録
【はじめに】高齢社会において転倒・骨折の問題は要介護のリスクとして長寿化とともに顕著化してきている。65歳以上の高齢者の人口が20%を超えようとしており,特に75歳以上の後期高齢者の増加が重要視されている。当県でも同様の推移がみられる。そこで今回,高齢者の加齢変化による身体機能の変化と転倒に影響を及ぼす要因を探るため,高齢者の反応時間と転倒の評価項目の一つとして挙げられている開眼片脚立位時間を測定し検討したので報告する。【対象と方法】対象は茨城県那珂町で開催された転倒骨折予防教室の参加者で日常生活に影響を及ぼす基礎疾患のない57名(男性3名,女性54名),平均年齢75.0±6.7歳(60から91歳)であった。評価項目に対し事前に測定に関する説明を行ない,同意を得た。参加者のうち前期高齢者の75歳未満をA群(25名),後期高齢者の75歳以上をB群(32名)とした。評価は短時間で測定でき,明瞭かつ簡易的に行なえるようにした。また事前に2から3回練習し,その後測定を行った。転倒経験は過去1年間に1回以上の転倒があるか問診した。評価は,1)反応時間,2)開眼片脚立位時間を計測した。反応時間は安静椅坐位にて前方より光刺激を提示し,利き手でリモコンボタンを押すまでをビデオカメラで撮影し計測を行なった。開眼片脚立位時間は安静立位で前方を注視してもらい,片脚を軽く挙げ再び片脚が接地するまでの時間を計測した。上限を60秒とした。統計処理はMann-WhitneyのU検定およびχ2検定を用いた。有意水準は1%とした。【結果】A群,B群の2群間の比較で,反応時間はA群0.31±0.16秒,B群0.37±0.14秒と差があった(p<0.01)。開眼片脚立位時間はA群28.4±22秒,B群10.8±14.6秒と差がみられた(p<0.01)。転倒経験では2群間に差がなかったが転倒経験者8名のうちB群に7名存在した。【考察】年齢による比較では転倒との関連は認められなかったが参加者57名のうち転倒経験者は8名で,その中の7名がB群に存在した。反応時間と開眼片脚立位時間で2群間の差が見られた。反応時間はバランス能力に影響を与えていると考えられており,加齢とともに反応時間は延長していることから,転倒のリスクの一つとなると考える。開眼片脚立位時間において片脚立ちで評価する平衡性は,閉眼・開眼いずれにおいても,著しい加齢変化を示すという報告もあり,先行研究と同様の結果が得られた。高齢者の転倒は身体機能,精神活動,生活習慣,環境等様々な要因が挙げられている。今回の反応時間および開眼片脚立位時間の測定は高齢者の加齢変化による身体機能と転倒を探るにあたって時間的制約も少なくてすみ,妥当性もあるため有用な評価項目の一つであると考える。また,反応時間の測定は簡易に測定できる方法である事が示唆された。今後,高齢者の反応時間と身体機能等の関係について調査,検討していきたい。