理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: SO512
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産業・労務管理
在宅介護職員における腰痛有訴状況とその関連因子についての一考察
*上月 芳樹桿平 司本田 侑子住田 幹男
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抄録

【はじめに】近年、介護職員の職業性腰痛に関する報告は増加傾向にあるが、主に老人保健施設等の施設介護職員の場合が多く、在宅介護職員を対象とした報告は少ない。今回、在宅介護職員を対象にアンケート調査を実施し、腰痛の有訴状況とその関連因子について検討した。
【対象と方法】対象は尼崎市内の在宅介護職員360名であり、回答の不備がある者を除く167名(年齢52.2±8.2歳、経験年数5.7±3.2年)について検討した。アンケートの主な質問項目は現在の腰痛の有無、発症原因(業務の関与・作業項目・作業姿勢)、腰痛の既往、発症や悪化への不安の有無、予防への意識、腰痛体操やコルセット着用の有無、業務時に多い作業項目、身体的・精神的疲労の有無とした。腰痛の有無と他因子との関連性及びその程度についてはχ2検定と判別分析を用いて統計処理を行った。
【結果】現在の腰痛の有無では「ある」118名(70.7%)、「ない」49名(29.3%)であった。発症原因では「現在の業務による」46名(39.0%)であり、このうち作業項目は「入浴介助」(43.5%)「掃除」(41.3%)の順に、作業姿勢は「中腰」(87.0%)「腰部の捻転」(41.3%)の順に多かった。腰痛の既往では「ある」74名(44.3%)、発症や悪化への不安では「ある」133名(79.6%)であり、予防を「意識している」135名(80.8%)、腰痛体操を「している」110名(65.9%)、コルセット着用を「している」55名(32.9%)であった。また、業務時に多い作業では「掃除」(74.9%)「台所での調理」(58.7%)の順に多く、身体的疲労では「ある・時々ある」121名(72.4%)、精神的疲労では「ある・時々ある」131名(78.4%)であった。更に、統計処理の結果から腰痛体操、腰痛の既往、コルセットの着用、身体的疲労、精神的疲労、予防への意識の順に腰痛の有無との間で高い関連を示した。
【考察】介護職員では腰痛有訴率が7割前後とする報告は多く、今回も同様の結果を示した。腰痛の既往では「ある」が44.3%と低率であったものの腰痛群は非腰痛群に比べ有意に多く、腰痛発症の主な関連因子の一つであるといえる。発症原因では「不明」が「現在の業務」とほぼ同率で39.8%(47名)を示し、業務以外に家事動作等の負担も伴い発症するケースも多いと思われる。また、在宅介護者の腰痛を誘発する介護動作では「入浴介助」が、姿勢では「中腰」や「腰部の捻転」が多いとの報告があり、今回の結果からもこれらの作業や姿勢を伴う介護業務には特に注意すべきであると共に、発症予防を目的とした正確な介助法の指導が必要である。今回、全体の約80%が腰痛の発症・悪化への不安を有していたが、腰痛体操では約65%、コルセット着用では約30%程度の実施率を示し、特に腰痛体操では「している」者のうち腰痛群が非腰痛群に比べ有意に多いことからその実施方法の問題も示唆された。身体的・精神的疲労では「ある・時々ある」が高率を示し、今後これらの軽減を目的とした労働環境の改善も望まれる。

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