抄録
【はじめに】高齢者の転倒は日常生活動作能力の低下を引き起こす危険性が高いため未然に防ぐことが重要となる。転倒率と歩行速度は強い相関があるといわれており、また歩行の安定性・歩容に影響を及ぼす要因の一つとして体幹と骨盤との協調性がある。歩行には多くの運動能力が関与していることから、歩行能力を測定することにより運動機能の把握が可能ともいわれている。以上のことから今回我々は独自に体幹機能の向上に着目した集団訓練(スリング体操)を立案し、その根拠と、体操実施前後の歩行速度の変化について検討したので報告する。【対象と方法】1.当施設を利用している歩行自立で著名な運動麻痺のない高齢者21名(男性7名、女性14名、平均年齢81.3±7.2歳)を対象に、10m最大努力歩行と超音波式3次元動作解析システム(zebris社)を用いて立位での自動体幹回旋可動範囲を測定した。各々の測定値の関連をピアソンの相関係数の検定を用いて検討した。2.1の対象者のうち13名(男性3名、女性10名、平均年齢80.2±6.9歳)に、スリング体操として坐位でセラピーマスター(Nordisk Terapi社)と重錘を用いた体幹・上肢へのアプローチを約20分間実施した。体操実施前後で10m最大努力歩行を測定し、対応のあるt-検定にて比較を行い、危険率5%を有意差ありとした。【結果】1.体幹の回旋可動範囲の側屈要素と歩行速度に相関がみられた(p<0.05)。2.体操実施前に比べて実施後は歩行速度に有意な改善がみられた(p<0.01)。【考察】体幹可動性と歩行速度について検討した結果、立位で体幹回旋時、代償運動としての側屈要素の割合が大きい対象者ほど歩行速度が遅い傾向がみられた。この理由として_丸1_骨盤の固定性が低いため体幹運動時動揺が出現した、_丸2_胸郭の柔軟性低下により代償運動が出現したと考えた。このため歩行時に体幹の左右動揺や骨盤と体幹の協調性が不十分となるため歩行速度が遅くなると考えた。これらのことを踏まえ、骨盤を固定し、体幹との分離運動を促通するため坐位でのスリング体操を立案、実施した。また体幹の固定性を促すために重錘を用いた上肢へのアプローチも加えた。この結果、即時効果として体操実施後に10m最大努力歩行の改善がみられた。これらのことから、体幹機能の改善が歩行の安定性向上につながると考えた。