抄録
【はじめに】肩甲上腕リズムは、古くより諸家によって多く報告されている。しかし、その運動は肘関節伸展位であり、日常の生活動作とは異なるもので、日常生活動作に近似した運動での解析は散見されない。
そこで今回我々は、これまでの報告と同様の肘関節伸展位での挙上動作と、肘関節の屈伸を伴う挙上動作における肩甲上腕リズムを比較検討したので報告する。
【方法】被験者は、肩関節に既往のない健常成人男性8名、年齢30.5±2.12歳であり、全員右利きであり、測定にあたり本検討の主旨を説明し、同意を得た。
被験者は端坐位で体幹を固定し、上肢下垂位から肩関節肩甲骨面上挙上135度までの範囲で、肘関節伸展位(以下、肘伸展位動作)および肘関節の屈伸を伴った上肢挙上運動(以下、リーチ動作)について測定した。尚、手指の到達位置が同じになるように目標物を設置し、リーチ動作に伴う肘関節の運動は自由に行った。
マーカーは、第36回日本理学療法士学術大会の山口らの報告に従い、胸骨上切痕、右側の烏口突起、肩峰遠位端(上肢挙上時に皮皺として現れる点)、肘関節とし、ハイスピードカメラ(60Hz)で動作画像を取り込み、Peak社製三次元動作解析装置Motusを用いて前額面上に投影し、烏口突起と肩峰遠位端を結ぶ線の中点と肘関節の中点でできる線を上腕骨と規定、下垂位を基準として、上腕骨の運動角度10度毎における肩甲骨の運動を算出して、肘伸展位動作とリーチ動作の挙上と下降について検討した。
【結果】伸展位動作とリーチ動作の、上腕骨角度に対する肩甲骨の位置では、挙上・下降ともに肘伸展位動作よりリーチ動作の方が肩甲骨がより上方回旋していた(p<0.01)。つまり、リーチ動作においては肘伸展位動作より肩甲胸郭関節の動きが大きくなる傾向となった。
特に、下降時における差は著明(p<0.01)であり、その傾向も、直線的な変化を示す肘伸展位動作に対し、緩やかなカーブを描く2次曲線的変化となった。
【考察】今回の結果、肘関節伸展位での挙上動作よりも肘関節の運動を伴うリーチ動作のほうが肩甲骨がより上方回旋しており、リーチ動作の中でも特に下降時に著明であることから、挙上動作において肘関節の運動を伴うことで肩甲胸郭関節の担う運動が増加する傾向が示された。
臨床上、肩関節挙上動作時に疼痛を有する症例の中に、肘関節の屈曲を伴う挙上動作で疼痛が減少する症例を経験することが多く、これらの結果から、リーチ動作時の肩甲上腕リズムは従来報告されいているものとは異なり、特に下降時には肩甲胸郭関節の担う役割が大きくなり、肘関節の運動を伴うことで肩甲上腕関節にかかる負担を軽減する役割を果たしている可能性が示唆された。
今後、症例でも解析を行い、肘関節の運動を伴う挙上動作における肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節の詳細な役割について検討する必要性が示唆された。