抄録
【目的】近年,多能性幹細胞を使った軟骨,骨,筋,神経等の再生医療に関する研究が始まり21世紀の医療技術として期待されている.この幹細胞を使った再生医療では,幹細胞が未分化で多能性を持っていることが重要となる.一方宇宙飛行による筋萎縮,骨萎縮は無重力環境による細胞の分化抑制によることが知られている.我々は,この環境因子を再生医療に応用するため人工無重力環境で幹細胞を培養し,軟骨へ分化誘導をかけ,軟骨欠損動物へ細胞移植を行った.
【方法】培養細胞は,ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を使用し,フローサイトメトリー(FACS)で選別を行った.細胞増殖用培地は,基礎培地にL-glutamine,penicillin/streptomycin を添加して培養液とした.軟骨への分化誘導はdexamethasone,ascorbate,prolineにTGF-β3を添加した.実験群は,二群に分け1Gの静置培養を行ったものをコントロール群(C群),重力分散型無重力発生装置(3D-クリノスタット)で培養したものをクリノスタット群(CL群)とした.各細胞群を遠心分離して細胞塊(ペレット)を形成させて培養した.培養実験は,細胞内シグナル伝達系MAPKのリン酸化シグナル応答と軟骨の分化をタイプ2型コラーゲンの発現で解析した.二群の細胞群を生後5週齢のBALB/C系雌マウスに細胞移植を行った.移植手術は,大腿部皮膚を切開し,手術用ドリルを用いて大腿骨膝蓋関節面に小穴を開け,軟骨欠損モデルを作成した.シャム手術(シャム群)としてドリルリングのみを行った群を作成した.移植後のドナー/レシピエントの細胞の同定には,SRY法を用いXX(マウス),XY(ヒト)の発現マーカーで解析した.
【結果】幹細胞のペレットの体積比は, CL群のペレットがC群と7日で4倍, 14日で8倍増加した.細胞増殖に関わるMAPK/ERKをみるとCL群で経時的にリン酸化シグナルが増加した.タイプ2コラーゲンの発現をみるとC群には経時的に発現が増加したがCL群では発現がみられなかった.細胞移植10週後の結果は,C群は硝子軟骨を形成したがその生着率は7%であった.CL群では80%の硝子軟骨を形成し生着した.なおシャム群では線維性軟骨を形成した. SRY法を用いてXX(マウス),XY(ヒト)の発現をみると移植軟骨細胞はXY(ヒト)由来のものであった.
【考察】人工無重力環境で培養した幹細胞は,未分化大量培養でき,移植後の細胞も高い生着率を示した.これにより未分化幹細胞は,分化した細胞より免疫拒絶反応を示す細胞表面抗原の形成が未熟なため,異種間細胞移植でも拒絶が起こらなかった可能性が考えられ再生医療を行う上で生体内での存在頻度が低い成人幹細胞の大量培養と臨床応用への知見を得た.