抄録
【目的】
臨床において下肢関節外科術後や骨折後の患者に対し,部分荷重訓練を行うことがよくあるが,患者はうまく荷重を患側にかけることができない時がある.患者は健側にかかる荷重量や患側に対する痛みや圧覚,筋の伸張度合いなど数多くの感覚を動員しながら患側への荷重量を把握していると考えられる.今回,利き目と利き足との関係を明らかにすることで荷重訓練有効に行ううえでの指標となりえるか検討した.
【方法】
対象は直立立位保持の支障となる疼痛,脚長差,視力・視野障害および平衡機能障害のない者で,利き目および利き足が右側と判定された健常成人女性19名,平均年齢25.8±4.5歳であった.
測定機器は2枚のフォースプレートを備え,体重に対する左右下肢への荷重率,総軌跡長を測定できる,アニマ社製グラビコーダG-7100の下肢荷重検査モードを使用した.
被験者は自由開脚幅で左右プレート上に裸足で立位となり,検者の「目の前の目印を見て真っ直ぐ立ってください」という指示に従い,両開眼,利き目開眼,利き目閉眼で各2分間直立静止立位を保持する.この際,上肢は体幹の横に下垂させた状態とし,同一の開脚幅とするために,プレート上に設置した紙に足型を写し,母趾間と踵間距離を測定した.また各検査間の休憩は1分間とし,サンプリング周波数は20Hzとした.
2分間の直立立位保持における利き足への荷重率平均値(wt%)と総軌跡長(cm)を荷重特性の指標とし,両開眼,利き目開眼,利き目閉眼の3群間におけるそれぞれの比較を一元配置分散分析(有意水準5%)を用いて統計処理をした.
【結果】
両開眼,利き目開眼,利き目閉眼における3群間の利き足への荷重率平均値の比較では,それぞれ49.2±3.7%,49.4±3.2%,50.5±4.1%であり有意差は認められなかった.また総軌跡長の比較でも,それぞれ84.1±36.4cm,85.2±32.4cm,88.0±42.7cmであり有意差は認められなかった.
【考察】
本研究では両開眼,利き目開眼,利き目閉眼における利き足側の荷重率平均値および総軌跡長を比較し,利き目の開閉が利き足におよぼす影響を明らかにすることで荷重訓練を有効に行うための一指標となりえるかについて検討した.その結果,健常成人の荷重率平均値と総軌跡長は利き目の開閉には影響を受けていなかった.Pyykkoらによると,姿勢制御機能は成人では視覚より体性感覚に多く存在し,老年期になると視覚系と前庭系が主要な役割を果たすと述べている.更にヒトの姿勢制御は20代~50代が非常に安定しており65歳より次第に不安定になると報告している.人には利き目が存在し,利き目優位で対象物を見ており,利き目を閉じることで重心の動揺に影響を与えると思われたが,被験者の平均年齢は25.8±4.5歳と若く,視覚の依存度が低く姿勢制御が安定した年代層であったことが,今回の結果に至ったと考えられる.