抄録
【はじめに】静止立位におけるバランス機能評価として重心動揺計が一般に用いられているが、臨床で使用される重心動揺計で得られる様々なデータは実際には足圧中心の軌跡であり、身体の質量中心である重心の挙動をどの程度反映しているかは不明である。そこで本研究では足圧中心(COP)動揺と重心(COM)動揺の関係を明らかにするために、COP動揺から得られる指標のうちCOM動揺をより反映していると思われるものについて検討した。また、水平面におけるCOP、COMの位置に影響を及ぼす因子を探るため、開閉眼およびスタンスによる差についても検討した。
【対象と方法】対象は健常成人4名(男性2名、女性2名、年齢22.8±0.74歳)。身体特徴は身長169±6.8cm、体重58.5±6.4kgであった。COP計測には日本KISTLER社製多成分force plate 9286Aを2枚使用した。COMはVICON MOTION SYSTEMS社製Vicon512を用い左右の肩峰、大転子、膝関節、足関節、第5中足骨頭に取り付けたマーカー位置を読み取り、Oxford Metrics社製Body Builder Ver.3.55を用い算出した。計測は立位での3種のスタンス(50%,100%,150%、肩峰端距離を100%とする)の各々で開眼、閉眼にて行なった。スタンス、開閉眼はランダムに実施した。取り込み回数は各肢位、開閉眼で1回ずつ計6回行なった。データ取り込みは60Hzで約150秒とし、その内120秒7200サンプルを解析対象として用いた。各肢位、開閉眼で得られたCOPとCOMの各指標について相関係数rを求めた。検討した指標は総軌跡長、単位軌跡長、矩形面積、実効値面積、左右方向(M/L)・前後方向(A/P)軌跡長、M/L・A/P最大振幅、最大振幅比、M/L・A/P実効値である。また、上記の各指標のCOM、COPにおいてスタンス、開閉眼の差について対応のあるt検定を行なった。
【結果及び考察】相関係数rは最大振幅比r=0.824、M/L実効値r=0.963、A/P実効値r=0.837で強い相関を認め、単位軌跡長r=0.0327、矩形面積r=-0.0298、A/P軌跡長r=-0.00766で弱い相関を認めた。スタンスがCOM、COPの各指標に及ぼす影響については、COMの最大振幅比において開眼の50%と100%及び閉眼の50%と100%で差(p<0.05)を認め、閉眼の50%と150%でも差(p<0.01)を認めた。COMのM/L最大振幅にて開眼の50%と100%及び閉眼の50%と100%、50%と150%で差(p<0.05)を認めた。COMのM/L実効値にて閉眼の50%と150%の間に差(p<0.05)が認められ、COPのM/L実効値において開眼の50%と100%、閉眼の50%と150%の間に差(p<0.05)を認めた。各指標で開閉眼による差はなかった。以上から、COP動揺において最大振幅比、M/L・A/P実効値はCOM動揺を表す指標となる可能性が示唆され、単位軌跡長、矩形面積、A/P軌跡長はCOM以外の要因に影響を受けている可能性が考えられた。また、最大振幅及び実効値のM/L成分でのみスタンスによる差を認めたことから、A/P方向の重心位置にはスタンスに依存しない別の要因が関与している可能性が示唆された。