抄録
【はじめに】ヒトは,足関節底屈に伴う下腿三頭筋出力において,床面の反力を弁別して身体矢状面上における立位姿勢制御を行っている.それには,床面の情報をリアルタイムに知覚し,この知覚と同時に主観的感覚を手がかりとした下腿筋出力調節が必要となる.今回の研究目的は,バネ反力探索中にみられる下腿三頭筋の出力調節能および弁別能を,主観的感覚強度を踏まえて明らかにすることである.
【方法】被検筋は健常女性6名の軸脚の腓腹筋外側頭,腓腹筋内側頭,ヒラメ筋とした.実験器具には,足尖部のバネ反力が変化する水平軸不安定板を使用した.課題測定肢位は,膝伸展位の背臥位とし,不安定板を足底に設置した.反力弁別の方法は,まず4段階のバネ反力を,一回ずつ学習させた.次に,ランダムに提出されたバネ反力を弁別し回答するよう求めた.その回数は各段階をそれぞれ6回ずつとし,計24回施行した.また,課題遂行中に誤回答が検出された場合,誤回答が生じた段階で再び正回答が出るまで課題を施行し続けた.課題遂行中の下腿三頭筋筋活動の導出にはNORAXON社製Myosystem1200を用いた.筋活動導出時間は1秒間とし,不安定板を足底部に接地するまで踏み込ませたときの値を測定した.課題遂行中の積分値は,1秒間の最大随意収縮時の積分値で除し正規化(%IEMG)した.
1)一元配置分散分析を用い,各筋毎の%IEMGをバネ反力段階間で比較した.2)各段階のバネ反力と,正回答時における各筋の%IEMGの級内相関係数を求めた.3)誤回答時の%IEMGと,正回答時の%IEMG(例として段階4を3と誤回答した時と段階3を3と正回答したとき)を,各筋毎に級内相関係数を算出した.
【結果及び考察】1)の結果,下腿の三筋全てにおいてバネ反力の段階が下がれば筋出力も減少しており,有意差を認めたが,バネ反力2の段階と1の段階での比較においては有意差を認めなかった.これはバネ反力が減少し,筋出力が微量になると,出力調節が困難になることを示唆している.2)の結果では,4つの段階全てにおいて有意な相関を認めた(p<0.001).このことは,ランダムに与えられたバネ反力に対し,下腿三頭筋出力の高い再現性が得られたことを示している.また,3)の結果,下腿3筋とバネ反力段階別において有意な相関を認めた(p<0.001).
今回の実験課題は,結果の知識を与えなかった事が,下腿三頭筋の筋出力以外に基準を構築することが不可能であり,単一の感覚モダリティーのフィードバックに頼らざるを得ない探索課題であった.今回のバネ反力識別課題における回答は,下腿三頭筋出力調節の支配下で認識を行っており,その認識は個人それぞれの主観的感覚強度を内的基準として設け,それを表出したものであると考えられた.