抄録
【目的】本研究の第一の目的は,これまでに我々が報告した関節固定による皮質運動野(M1)興奮性の変化を以前とは異なる方法で再確認することである。第二の目的は,皮質内抑制および促通機構の状況に関節固定が及ぼす影響を明らかにし,M1興奮性変化の背景機序について検討することである。
【方法】被験者は,本研究所倫理委員会の承認を受けた研究内容に同意した健康な成人男性8名であった。大腿部から足部までを7日間ギプス固定し,その前後に以下の測定を実施した。下腿三頭筋から表面筋電図を導出した。経頭蓋磁気刺激(TMS)は多段階の刺激強度で安静時[運動閾値(MTh)×1.1,1.2,1.3,1.5]と筋出力を調節する運動課題実施中(6~11段階)に実施した。運動課題実施中の刺激により運動時のMTh(AMTh)を決定した。運動課題は足関節底屈最大筋力の5%レベルで軌跡を追従するものであった。安静時のM1入力-出力関係は,測定時期(固定前後)要因と刺激強度要因について二元配置分散分析を行った。運動課題中の入力-出力関係を示す変数として,各刺激強度とMEPの関係をS字曲線にあてはめ,曲線プラトーの50%地点における傾き(S50)を求めた。また,運動課題中に刺激間隔3ms(ICI3),および15ms(ICI15)でTMSの二連発刺激を行い,皮質内抑制および促通効果について検討した。条件刺激強度は多段階とした。MEPは,安静時に後脛骨神経を電気刺激して記録された最大上M波で基準化した。
【結果】1)運動閾値:安静時,および運動課題時について,共に関節固定前後で変化していなかった。2)安静時M1入力-出力関係:測定時期と刺激強度の要因間に交互作用があった。多重比較では,固定前はMTh×1.1と×1.5の間にのみ有意差があった。固定後は,MTh×1.5が他のいずれの刺激強度よりも有意に高かった。3)運動課題中のM1入力-出力関係:固定後はS50が有意に増加した。4)皮質内抑制・促通:ICI3では固定前後で有意差がなかった。ICI15は固定前には条件刺激間に有意差がなかったが,固定後は条件刺激がAMTh×0.7の時よりも×0.95で有意に増加していた。
【考察とまとめ】今回の結果から,関節固定によってM1の入力-出力関係は有意に変化し,利得が増加することがわかった。その背景として皮質内抑制の変化は統計学的に明確でなかったが,促通効果が増大する傾向にあった。これらは,被験者数が少ないこともあり,関節固定の影響が否定される結果ではなかった。今回の結果を含む一連の我々の報告と矛盾する報告もあるが(Facciniら,2002),我々は下肢を7日間固定した場合には筋出力機能の低下とM1興奮性の増大が並行に起こるということを,改めて示した。運動学習過程においてもMEPの促通が生じると報告されていることから,背景機序は異なるものの,MEP増大は運動機能が陽性および陰性のいずれの方向へ変化する過程においても観察されうるものと推察する。