理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 428
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神経系理学療法
小児頚髄損傷の理学療法の経験
*長谷川 三希子横畠 由美子
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キーワード: 頚髄損傷, 小児, 理学療法
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抄録
【はじめに】10歳以下の脊髄損傷は極めて稀(全脊髄損傷の0.1から3.6%)であり、長期的な予後から小児特有の問題点を述べた報告は散見されるが、小児頸髄損傷の理学療法に関する報告は渉猟しえた範囲では見当たらない。今回1歳4ヶ月で頸髄損傷を受傷した男児の理学療法について報告する。
【症例】1歳4ヶ月男児、C5頸髄損傷(Frankel分類;C)。父母と3人暮らし、自宅マンション(4階)よりうつぶせの形で転落。当院救命ICUへ搬送され、呼吸管理、頚部固定の保存的療法を施行された。骨傷は無く、MRI上C4、5の出血を認めた。受傷後20日在宅目的で当院小児科へ転科し、受傷後8ヶ月在宅呼吸器管理にて退院した。睡眠時呼吸器を使用し、適宜吸引を行なっている。食事は経管栄養を併用、導尿、排便は座薬を使用している。
【理学療法経過】受傷後5日、呼吸、ROM維持、上肢機能引き出し目的で理学療法を開始した。受傷後20日、ウィニング施行中で、全身状態、機嫌が不安定な為、精神的満足度の向上を目的に抱っこ、頭部保持付リクライニング車椅子座位の姿勢管理、遊びの中で頚部と上肢の筋力強化を施行した。受傷後2ヶ月、日中の呼吸器離脱(6時間以内)が安定し、頭部保持を目標に支柱付短下肢装具を装着、Supine Boardでの立位を開始した。受傷後4ヶ月、長下肢装具装着での立位を開始した。脊柱体幹の過剰な可動性による不安定性に対し体幹コルセットを使用し、自らの頭部コントロールによる脊柱、体幹のバランス練習を行った.又後方からの介助歩行を開始、下肢の振り出しに伴い僅かに腸腰筋の筋収縮がみられた。退院に向けベビーカー、室内用椅子の姿勢管理と家族指導を行なった。受傷後8ヶ月在宅生活を開始した.家庭でのROM運動が毎日行え、理学療法場面での立位、歩行の持続性が向上した。受傷後16ヶ月、骨盤帯付長下肢装具装着の立位は計3~4時間/日、1回/2日可能となった。体幹サポートを装着した椅座位バランス、頭部、上肢からの寝返りの練習を開始した。寝返りでは下肢の屈曲がみられることもある。又直接的な上肢筋力強化も可能となった。
【考察】本症例の特徴として、発達過程の未熟な骨格、靱帯、筋力による脊柱体幹の支持性の低下が挙げられ、受傷直後は頭部保持も難しかった。小児脊髄損傷特有の合併症状として、脊柱変形、股関節脱臼が報告されているが、本症例もそれらに対する配慮が長期的に必要であると考え、脊柱伸展を獲得する目的で立位での筋力強化を早期から積極的に行なった。起立性調節障害は無く、体が小さい為、順調に立位、介助歩行が進められた。早期からの積極的な立位、歩行練習は筋力強化、下肢の動きの引き出しにおいて有効であり、椅座位バランス、寝返り動作へ活かされている。それ以外にも、精神的満足感を提供でき、理学療法の受け入れに有効であったと考える。
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© 2004 日本理学療法士協会
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