抄録
【はじめに】
我々は新しい脳卒中リハビリテーション(以下,リハ)システムであるFull-time Integrated Treatment (以下,FIT )programを開発し,実践している.このFIT programによる治療が,従来のリハに比べ,より短い在院日数で,より大きなADL改善ともたらすことを報告してきた.今回はFIT programにより得られたADL能力が,退院後にも保たれているかを知る目的で,在宅復帰後のADL状況(以下,調査時)を追跡調査した.
【対象・方法】
対象は入・退院時に加え,退院後18ヶ月の時点までFunctional Independence Measure(以下,FIM)運動項目を測定できた脳卒中片麻痺患者とした.対象は, 2000年11月までに週5日の従来型のリハを受けた37名(Pre群)と2000年12月以降に週7日一日中のFIT programを受けた49名(FIT群)である.在宅ADLの調査のため,退院後18ヶ月の時点でFIMなどのアンケートを行った.アンケートは郵送し,返信後不備のあった場合には電話での補足確認を加えた.FIMについては,当院にて新たに作成されたフローチャート式の質問紙を使用した.その信頼性は確認済みである(第37回日本作業療法学会).回収された調査時FIM運動項目合計(以下,FIM-M)と入・退院時FIM-MについてPre群とFIT群とで比較した.
【結果および考察】
FIT 群とPre群のFIM-Mを比較すると入院時には有意差はなかったが(FIT群56.7点,Pre群51.1点),退院時には有意差が認められた(FIT群77.3点,Pre群66.2点).在院日数も有意に短く(FIT群73日,Pre群89日),これまでに我々が報告した結果と同様であった.調査時FIM-Mは,FIT群,Pre群どちらの群においても低下していたが(FIT群-4.3点,Pre群-4.4点),退院時FIM-Mが有意に高いFIT群が,調査時も有意に高い値であった(FIT群73.0点,Pre群61.8点).各項目別の平均推移を見ると,FIT群,Pre群の両群において更衣動作が低下する傾向が認められた.また,Pre群で低下する傾向にあったトランスファー・移動項目はFIT群では維持されていた.
以上より, FIT programは退院時ADLの向上のみでなく,退院後の定常状態のADL改善にも有用であり,入院中に高いADLを獲得することが,退院後のADLを上げる有効な方法であると推察できる.しかし,FIM項目別ではFIT programが従来のリハに比して能力の定着ができているものの,時間をおよび安全性を要する項目においては退院時に能力が低下しやすい傾向は認められ,今後家族指導において考慮していく必要がある.