抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺患者における立位バランス能力はその機能予後にも大きく影響し,静的バランスのみではなく,動的バランスの評価は有用であると考え,我々は水平動揺刺激を加えた重心動揺計を開発し用いてきた。そこで今回,前後水平動揺刺激を加えた際の静的および動的バランスについて,棄却楕円面積(以下,面積)と病日との経時的関係から考察し,若干の知見を得たので報告する。
【対象】平成8年4月から平成14年11月までの過去6年間の当院にて入院訓練を実施した脳卒中片麻痺患者のうち裸足での立位保持可能であった141例を対象とした。内訳は平均年齢:59.0±12.4歳,性別:男性94例,女性47例,麻痺側:右片麻痺65例,左片麻痺76例,Brunnstrom stage:2:3例,3:24例,4:35例,5:24例,6:55名,半側空間無視の合併(以下USN):あり29例,なし112例であった。
【方法】当院にて開発した重心動揺計は左右2枚の床反力計が同時に連続水平移動できる構造となっている。対象者は床反力計上に裸足で10cm開脚立位をとり,開眼,上肢は自然下垂位として立位を保持するように指示した。20秒間静止の後,動的バランスの測定として,移動距離10cm,周波数0.5Hzの正弦波を示す連続50回の前後水平動揺刺激を加えた。測定より得られた静止時および動揺刺激時の棄却楕円面積(以下静的面積,動的面積)における経時的変化について検討した。また,初回評価時における麻痺側別およびUSNの有無別を比較,検討した。
【結果および考察】複数回評価可能であった例にて800病日までの変化について検討した結果,病日と動的面積では急性期での面積,各個人間での面積の減少率とも大きく,病日の経過と共に面積,面積の減少率ともに小さくなる傾向がみられた。そのうちで減少率の大きかった250病日まででみると病日の経過とともに動的面積が減少する傾向がより著明に認められた。
さらに90日以内の再評価例(17例)における動的面積の変化をとらえたところ,病日の経過とともに動的面積は減少し,急性期ほど減少率が大きく,病日の経過とともに減少率が小さくなる傾向を認めた。また,初回評価時のみの麻痺側による比較では動的面積に有意差は認められなかったが,USNの有無では有意差が認められた。(p<0.01)
【まとめ】脳卒中片麻痺患者において動的面積は病日とともに有意に減少を示すことが明らかになった。その減少率は急性期では大きく,病日が経つと小さくなる傾向が認められ,急性期での動的バランスの改善度が高いことが考えられた。また,複数回の評価試行例において,静的バランス評価では変化が認められなくなっても,動的面積およびその減少率が大きいことより動的バランス評価の有用性が示唆された。