抄録
【はじめに】脳卒中患者において、過剰な下腿三頭筋の働きを抑制し運動療法を実施することが多い。しかし、下腿三頭筋は歩行立脚後期に強く活動しており、前進、加速作用として重要な働きをなしている。そこで、脳卒中患者の下腿三頭筋の機能とその働きが低下していることによる影響を調べたので報告する。
【対象と方法】対象は、介助なし歩行可能な脳卒中患者24名(右片麻痺10、左片麻痺14)、平均年齢66.0±9.4歳、男性16、女性8、平均罹病期間31.4±35.6か月であった。全ての対象者は口頭指示での動作が可能であり、本測定の主旨に同意が得られた者とした。対象者は、模造紙上で決められた進行方向に対し自然立位となった状態から、麻痺側下肢支持での非麻痺側下肢の前方ステッピングを行った。模造紙上にステップ時の麻痺側支持脚の踵中央と第2足趾先端、及び非麻痺側ステップ脚の踵中央をマーキングした。その時の歩幅と麻痺側足角を計測した。歩幅は、転子果長で除した値を求めた。歩幅と足角は3回ずつ計測しその平均値を求めた。さらにhalf lyingで膝伸展位に固定し、麻痺側下腿三頭筋の筋力をアニマ社製徒手筋力計μ‐Tas MT‐1を用いて3回測定して最大値を求めた。また、麻痺側足関節背屈角度を膝関節伸展位で他動的に測定した。それぞれの相関を調べ、また下肢12段階式片麻痺グレードで7以下12名(A群)と8以上12名(B群)の2群に分けて検討した。
【結果】麻痺側足角平均値(度)は22.0±16.5、A群で28.3±14.3、B群で15.6±16.6であった。歩幅平均値(cm)は55.9±18.3、A群で47.8±16.3、B群で64.0±17.1であった。麻痺側筋力最大値(kg)は14.1±4.8、A群で11.9±4.6、B群で16.3±4.1であった。麻痺側足角と歩幅、麻痺側筋力にそれぞれ負の相関を認めた。歩幅と麻痺側筋力に正の相関を認めた。麻痺側足関節背屈角度と歩幅、麻痺側足角には関係は認められなかった。A群とB群を比較すると、A群は麻痺側足角と歩幅、麻痺側筋力の相関と、歩幅と麻痺側筋力の相関を認めた。B群は歩幅と麻痺側筋力にのみ相関を認めた。
【考察】非麻痺側下肢をより大きくステップすることができる者は、麻痺側支持脚の足角は小さく、下腿三頭筋の筋力は大きいという結果が得られた。また、A群とB群を比較すると、A群でも同様の結果が得られたのに対し、機能的に優れるB群では筋力の大きいものは歩幅も大きく、足角に関わらず筋力が発揮できているという結果が得られた。これにより、A群では足角が大きくなり筋力が発揮されないことによる筋萎縮、歩幅の狭小化が起こることが示唆された。B群では足角に左右されず筋力を発揮できることから、歩幅の拡大には下腿三頭筋の筋力強化の必要性が示唆された。