抄録
【はじめに】
短下肢装具の機能には,足関節の底屈に対して反力を発する機能(以下,底屈制動)と足関節の背屈に対し反力を発揮する機能(以下,背屈制動)がある.装具を装着している際,底屈制動は足関節背屈モーメントを補助し,背屈制動は足関節底屈モーメントを補助する役割を果たす.現在市販されている装具は,底背屈制動の大きさと制動を発揮し始める角度を組み合わせて機能構成されている.よって装具を処方・適用する際は,使用者の歩行を力学的に分析した上で,必要な制動を装具に付加する必要がある.片麻痺者の歩行と付加する装具の背屈制動機能に関しては,2つの相反する説が提唱されている.Lehmannは,歩行立脚中期から後期の足関節底屈モーメントを増大させ,蹴りだしを増大させるために,装具には背屈制動が必要であると述べている.一方Thilmannは,装具に背屈制動を付加することにより,立脚中期に下腿の前方回転が妨げられるため,背屈制動を付けないほうが良いとしている.そこで今回の研究では,装具の背屈制動機能が歩行時の推進力に与える影響について明らかにすることを目的とする.
【方法】
対象は,脳卒中片麻痺者6名(発症からの平均期間29.8ヶ月).Brunnstrom recovery stageは,3から5であった.実験条件は,裸足歩行,背屈制動なし,背屈制動あり(制動の大きさは3段階)の計5条件とした.背屈制動の大きさは,評価用装具に取り付けた制動バネを取り替えることにより変化させた.底屈制動は,視診にて最も適切と考えられる制動力を予め決定し,評価用装具に取り付けた.被験者が各条件で歩行している状態を,三次元動作解析システムを用いて解析し,歩行立脚期における下腿前方回転角度の変化量,足関節底屈モーメントピーク値,進行方向床反力のピーク値を算出した.各被験者における条件間の差の検定には,一元配置分散分析と多重比較(Tukey's HSD test)を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果及び考察】
背屈制動なしと背屈制動ありを比較した結果,背屈制動なしの方が下腿前方回転角度変化量が大きかったのは,6例中5例であり足関節底屈モーメントと床反力推進力に変化は見られなかった.この5例は,Thilmannが提唱するように装具の背屈制動が身体の前方回転を阻害していると判断した.背屈制動なしの際,下腿前方回転角度が減少した1例は,足関節底屈モーメント・床反力推進力に変化が見られなかった.この症例は,装具の背屈制動力を用いて下腿の前方回転を制動していると推察された.
今回の結果から,Lehmannが提唱するように装具に背屈制動機能を付加しても,蹴りだしを補助する役割では使用されていないことが明らかになった.弾性素材により装具を作製する限り,下腿の前方回転が阻害され推進力は得られることはできないことが示唆された.