抄録
【はじめに】
変形性股関節症は疼痛と変形の進行により徐々に歩行能力の低下を示すことが多いが、制度的にも長期にわたり理学療法を提供することは医療施設においては難しくなってきていると考えられる。今回、両側の変形性股関節症による強い疼痛のため松葉杖を使用していたが、3年以上の長期間を要しながらも杖歩行に改善を認めた症例を経験したので報告する。
【症例紹介・理学療法評価】
56歳女性、先天性股関節脱臼であった。昭和42年より股関節疼痛出現し、昭和64年疼痛増強によりA病院入院。平成15年4月再び疼痛増強しB病院にリハビリテーション(以下、リハ)目的にて入院するも疼痛強く車椅子となる。同年8月当院受診し外来リハ開始となる。開始時の股関節機能判定基準は(右/左)17/18点であった。股関節の関節可動域(°)は、屈曲/伸展が右50P/10、左55P/10、外転/内転が右10/15、左10/15、徒手筋力検査は股伸展、外転4、NRS(Numeric Rating Scale )は8であり安静時・体動時・夜間・歩行時痛出現し、睡眠障害も認めた。移動は、屋内外とも両松葉杖歩行であった。
【歩行・疼痛の経過】
万歩計を日中装着し、毎晩就寝前に股関節痛の程度および1日の歩行量(歩数)を記録用紙に記入した。疼痛の種類は歩行時とし、その程度はNRSにより記入した。平成16年3~8月の平均歩行量は2357.0±820.7歩、NRS7(最大値8→最小値4)であり歩行量・疼痛共に日による変動が目立ち、疼痛の訴え多く外出頻度が減少していた。同年9~10月は歩行量を2000~2500歩に設定し、変動を少なくするように指導・記録を行ったところ疼痛増強を認めずNRS6(8→5)であった。この時点で、屋内歩行は杖を使用しながらの伝い歩きが可能となった。その後、平成18年2~3月における平均歩行量は2429.0±439.7歩、NRS6(6→4)であり歩行量の増加を認めたが疼痛増強を認めなかったため、同年4月より屋外歩行をT字杖2本へと変更した。平成18年4~6月の平均歩行量は2453.0±386.0歩、NRS6(7→5)であり、より移動を容易にするため同年7月より1本杖歩行へと変更した。同年7~12月の平均歩行量は2798.1±608.3歩、NRS6(7→5)であり、この時期には屋内独歩が可能となり、股関節機能判定基準は(右/左)28/29点であった。
【考察】
今回の改善は、歩行量と疼痛の記録により、適量な歩行量を提示できた事で歩行量が一定化した事、疼痛の程度を数値化し再認識することで疼痛に対する不安が解消された事が一因であったと推察される。また、訪問リハ導入により定期的に実施できたことも一因であると推察される。疾病の経過が長い症例であっても、長期間理学療法を提供することで歩行能力改善し生活範囲の拡大が得られるのではないかと考えられる。