抄録
【目的】中国労災病院リハビリテーション(以下リハ)科では、整形外科疾患を中心にリハプログラム項目のみからなるクリニカルパス(clitical pathway:以下CP)を作成・運用している。今回大腿骨頚部骨折CPの実態調査を行いバリアンス因子とその原因、そしてベッド上端坐位、車いす坐位、荷重歩行については遷延原因を検討した。
【対象と方法】2003年1月から10月までに当院で大腿骨頚部骨折の手術的治療後それぞれの術式に対応したCPを適応した58例で(人工骨頭置換術23例、γネイル12例、CHS:安定型15例・不安定型8例)、CP遂行が中止ならびにベッド上端坐位、車いす坐位、荷重歩行が未実施であった群をバリアンス群(n=25)、退院までにCP内容が達成可能であった群を達成群(n=33)の2群に分類した。そして(1)両群間の年齢、既往、受傷前日常生活自立度、受傷前日常生活痴呆判定基準についてStudent t検定、χ2乗検定、Mann whitney U検定を用いて検討した(有意水準は5%以下)。(2)バリアンス群を対象に手術日からバリアンス発生までの日数(以下バリアンス発生日数)と原因を調査した。また全症例のうちベッド上端坐位、車いす坐位、荷重歩行(荷重予定日が変更した3例を除く)の遷延原因も調査した。
【結果】(1)バリアンス群と達成群の年齢は85.6±8.8歳と82.2±7.5歳であり(n.s)、既往症としてバリアンス群16.0%、達成群0.3%に脳卒中後片麻痺、バリアンス群44.0%、達成群18.0%に痴呆を認めた。また受傷前日常生活自立度(p<0.001)と受傷前日常生活痴呆判定基準(p<0.05)において両群間に有意差を認めた。(2)バリアンス発生日数は12.8±7.2(1~31)日で、CP中止の原因は死亡2例(心筋梗塞、肺炎)、転科2例(術後脳梗塞発症、C型肝炎増悪)、全身状態不良3例(胸水貯留、腸閉塞、下血)、手術介入1例(手根管症候群)、カットアウト2例、骨癒合不良4例であり、またベッド上端坐位、車いす坐位、荷重歩行未実施の原因は痴呆・精神障害4例、脳卒中後片麻痺2例であった。また歩行開始を待たずに1例が自宅退院、4例が転院となった。そしてベッド上端坐位は56例中35例に遷延を認め、車いす坐位は54例中35例に遷延を認めた。2項目の主な遷延原因は休日などシステム要因であった。荷重歩行は36例中12例に遷延を認め、遷延原因は前2項目とは異なり身体・精神的要因のみであった。
【考察】バリアンス群では全体として受傷前の活動レベルが低くや痴呆レベルが重度であり、坐位・歩行の未実施例でその傾向が著明であった。しかしカットアウトや骨癒合遷延、転科、治療介入例などは受傷前因子との関係が低くなると考えられた。高齢者に多発する大腿骨頚部骨折では、受傷前の日常生活レベルや精神機能の評価が重要であり、バリアンス発生後は他職種との連携により速やかに対応していくことが必要である。