抄録
【目的】 社会の高齢化が進むにつれて,90歳以上のいわゆる超高齢者における大腿骨頸部骨折患者が増加の傾向にある.今回,当院における超高齢者の大腿骨頸部骨折手術後の臨床成績につき調査検討した.
【対象及び方法】 2001年3月~2003年3月までの間に術後リハビリテーションの依頼のあった者の中から検討内容を考慮し,受傷時住居が自宅であり,屋内歩行自立以上の能力を有していた90歳以上の患者29例(男性6例,女性23例,平均年齢90.7歳)を対象とした.
検討項目は1.術後歩行能力,2.自宅退院率,3.自宅退院患者の経時的推移とし,術後歩行能力に関しては,影響を与える因子として痴呆及び合併症数につき検討を加えた.
【結果】 1.術後歩行能力:29例中15例(52%)が屋内歩行自立レベルを獲得していた.自立群と非自立群間では痴呆の有無は有意差を認めたが,合併症数には有意差を認めなかった.
2.自宅退院率:29例中12例(41%)が自宅退院していた.この中に痴呆症状を呈し歩行不能であった者を3名認めた.転院の原因は,痴呆2例,歩行不能3例,痴呆及び歩行不能9例,介護者がいない3例であった.
3.経時的推移:小牧式下肢ADL評価表を用いて調査した.術後3ヶ月時点で屋内ADLは自立しており,術後6ヶ月時点でも維持できていた.
【考察】 一般に高齢となるほど歩行再獲得率は低下すると言われ,清水は37%,森末は42%と報告している.しかし自験例は52%と良好な結果であったが,これは当院の術後プログラムが術翌日から開始という,早期離床・荷重歩行の基本理念に従ったものであり,これが廃用症候群等を効率よく予防し,歩行再獲得に有利に働いたと考えられた.また痴呆の有無が影響を与えていたが,これは受傷前より徘徊など危険行為の経験を有する場合,家族と相談し,あえて伝い歩き程度をゴールとしたためである.自宅退院に関しては,痴呆症状がなく屋内歩行自立が条件であった.これは超高齢者世帯における介護者が70歳前後の高齢者であることが多く,介護負担の面から考えれば当然の結果であると思われる.しかしその一方で,痴呆症状を呈する場合歩行不能である方が自宅退院に有利であるという事実も認められ,退院時ゴールの設定は退院先やその環境を考慮し慎重に決定する必要があると思われた.経時的推移に関しては,当院では術後3ヶ月までは定期的に外来通院で経過管理を行い,ホームワークの指導も実施しており,これが現状維持に効果があったと思われた.しかし一般病院の現状として外来通院期間にも限界があり,今後在宅リハビリ等の有効活用が重要であると思われた.
超高齢者のリハビリの最大の目的は歩行能力再獲得と自宅退院,自宅生活の継続である.今回の結果より,患者個々の能力や自宅環境に合わせたゴール設定や介護保険の有効利用,長期的な経過管理など,総合的見地に立ってリハビリを進めることが目的達成に重要であると思われた.