抄録
【はじめに】当院におけるACL再建術は半腱様筋・薄筋を使用し、大腿骨側の骨孔を2つにしたBi-socket法を施行している。手術手技の進歩により、良好な再建靱帯の等張性と固定性が得られている。これに伴い術後早期から積極的な理学療法が可能となっている。さらに日々の臨床経験から細かくプログラムを改善し、現在の理学療法プログラムに至っている。
【当院における理学療法】術後から翌日の午前までは、血腫貯留防止目的でドレーンを留置して関節内を還流しベッド上安静とし、術後2日目から理学療法室にて治療を開始する。尚、手術翌日から病棟にてCPMによるROM訓練を開始する。原則的に訓練室内での治療中は全て装具を外した状態で行う。松葉杖は下肢の支持性、安定性、運動性、疼痛などの症状を総合的に判断し、問題なければ可及的早期に外している。
抗炎症処置:術後、または治療中の運動によって生じる炎症を抑えるため徹底したアイシングを行う。また術後早期に立位を取ることにより、下肢へ鬱血し疼痛が増強することが多い。これに対し循環作用の補助、痛みの軽減を目的に、弾性包帯を巻いて訓練を行う。
ROM訓練:術後早期は再建靱帯の等張性が保たれている角度で行う。痛みの増強しない範囲で、長坐位で下肢をリラックスさせ両手で大腿の後面を保持し、踵を滑らせるように膝の屈伸を行う。但し、深い屈曲域や過伸展域など、再建靱帯の等張性が保たれない範囲の可動域訓練は避ける。
筋力訓練:SLRやquad.settingなど非荷重位での訓練と、quarter squatなど荷重位での訓練を行う。特にquarter squatは歩行訓練への導入として重要な訓練である。
歩行訓練:術後可及的早期に正常歩行を獲得することは最も重要である。正常歩行の獲得、すなわち「機能的膝」の獲得はADLを拡大させるのみならず、筋力低下も防止する。訓練室内では、自覚的・他覚的に大腿四頭筋の筋収縮が獲得できれば、松葉杖を使用して部分荷重歩行を開始し、荷重がスムーズにできるようになれば松葉杖を外して可及的早期に全荷重歩行を進めていく。院内の生活では、1週間は両松葉杖を使用することになっており、それ以降は歩容が良く危険性がない事を判断し、可及的早期に杖を外して歩くことを許可する。2000年1月から2003年10月までの期間で院内での歩行獲得状況は、院内片松葉歩行8.7±2.7日(N=207人)、院内杖なし歩行11.0±4.2日(N=197人)で可能となっている。これにより以前より入院期間が短縮し仕事や学校を休む期間が減少している。
【おわりに】我々が治療の上で常に念頭においているのは、個々の膝の状態に応じてプログラムを決定していくということである。そのため常に再建靱帯の安定性、可動域、炎症症状などの局所の状態と、歩行動作や立位姿勢など全体の動きを評価し治療に生かしている。