抄録
【始めに】前十字靭帯(以下ACL)再建術後の患者の筋力については数多くの報告があるが,そのほとんどが半年から一年後の等速性筋力を測定したものである。術後早期の筋力については,等尺性筋力の報告がわずかにあるのみで等速性脚伸展筋力を測定したものはない。自転車エルゴメーターはACLにストレスをかけない安全なトレーニングとして再建術後早期より実施される。このためエルゴメーターによる等速性脚伸展動作は, ACL再建術後早期の筋力評価に有効であると考えられる。今回ACL再建術前及び術後1ヶ月での等速性脚伸展筋力と90度膝屈曲位での等尺性膝伸展筋力を比較し,若干の知見を得たので報告する。
【対象と方法】当院においてACL損傷に対して再建術を施行した男性6例、平均年齢21.3±4.5才を対象とした。再建はハムストリングス腱を使用,術後は当院のプロトコールに従ってリハビリテーションを実施した。筋力測定は術前および術後1ヶ月に行った。脚伸展筋力の測定はストレングスエルゴを使用し、5回転させたときのピークトルクを測定した。回転は等速運動とし、20rpm、60rpm、100rpmの3段階のスピードに設定した。ペダリング中の膝の屈伸角度は20度から110度となるようサドルの位置を調整し、 足部はペダルに固定せず、ペダルを押す脚伸展のみの筋力を測定した。また,等尺性膝伸展筋力はcybex6000を使用し,膝90度屈曲位で5秒間の最大等尺性収縮中のピークトルクを採用した。各テストについて健側比(患側筋力/健側筋力)および患側の術前比(術後筋力/術前筋力)を求めた。統計処理は反復測定分散分析と多重比較を使用し,有意水準を危険率5%未満とした。
【結果】術前の等速性脚伸展筋力の健側比は回転数20rpm,60rpm,100rpmの順に0.92、0.90、0.91、等尺性膝伸展筋力は0.81であった。等尺性膝伸展筋力の健側比は脚伸展筋力と比較して有意に低下していた。一方,術前比については,脚伸展筋力は順に0.76、0.88、0.79、等尺性膝伸展筋力は0.74に低下したが脚伸展筋力と膝伸展筋力の術前比には有意な差は見られなかった。術後の筋力の健側比は脚伸展筋力が順に0.66、0.69、0.68、膝伸展筋力が0.51であり,膝伸展筋力の健側比は脚伸展筋力と比較して有意な低下を示した。健側比,術前比ともに脚伸展筋力のスピードの違いによる差は見られなかった。
【考察】等尺性膝伸展筋力と脚伸展筋力は術前,術後ともに健側比に有意な違いが見られた。また,我々の過去の研究の中で,脚伸展筋力は片脚垂直跳びや片脚幅跳びなどの運動機能テストと高い相関を示すことが分かっており,脚伸展筋力と膝伸展筋力をともに測定することが,術後の経過を理解するうえで重要なことであると考える。今後,症例数を増やし,長期的な追跡が必要である。