抄録
【はじめに】
ACL完全断裂の患者では、受傷後動作時にgiving wayなどで膝の不安定感を訴えることが多い。靭帯損傷による膝関節構成体の障害により動作にも影響があることは当然のように考えられている。しかしながら国内では、膝靭帯損傷患者の姿勢や動作に関する記述研究、実験研究は非常に少ない。現在、ACL完全断裂、MCL損傷を受けた患者を担当している。受傷前の動作計測データが残っており、受傷前後での動作の比較が可能である。そこで、膝靭帯損傷後の片脚立位能力を計測し、受傷前後で比較した。本報告の目的は、ACL完全断裂、MCL損傷患者の受傷前後での片脚立位能力における変化を記述することである。本報告では、片脚立位能力のパラメータを姿勢と関節モーメントとする。
【方法】
症例は23歳、男性、右利き。フットサル競技中に受傷した。近医を受診し、右ACL完全断裂、MCL損傷と診断される。現在痛みはなく、ADL上特に問題ないが、歩行立脚中期に右膝関節が急激に伸展するという訴えがあった。受傷9ヶ月前と受傷2ヶ月後の右片脚立位保持の姿勢と関節モーメントを光学式3次元動作解析システムにて計測した。手順としては、体節の座標データと床反力データをdiff形式に変換し、diff解析ソフトを用いて関節角度、関節モーメント、関節パワーを求めた。片脚立位保持の課題は、患側の右側とした。受傷前の姿勢と一様になるように受傷後の姿勢は、持ち上げる左脚の股関節屈曲角度が同一なるよう指示した。また片脚立位時の持ち上げた左脚の影響を一定にするために股関節、膝関節、足関節の関節パワーの合計が0になる時期のデータを採用した。
【結果】
受傷前後で股関節、膝関節、足関節の関節角度に有意な差はなかった。受傷前に比べ受傷後では股関節伸展モーメント、膝関節伸展モーメント、足関節背屈モーメントが有意に減少していた。受傷前に比べ受傷後では床反力作用点が矢状面上で後方に移動し、床反力ベクトルが膝関節軸を通過していた。受傷前に比べ受傷後では体幹が後方に傾いていた。
【考察】
福井1)は、膝関節伸展モーメントが増大する姿勢では脛骨前方引き出しが生じるという仮説を述べている。本症例では、膝関節伸展モーメントを減少させることで脛骨の前方引き出しを減らそうとしていると考えられる。また膝関節モーメントを減少させるために床反力作用線を膝関節中心に近づけていると考えられる。以上のような状態を生み出すために足関節の底屈モーメントを増加させ、体幹を後方に傾けていると考えられる。
【まとめ】
ACL完全断裂、PCL損傷を受けた一症例の受傷前後での片脚立位能力を比較した。片脚立位能力として姿勢と関節モーメントを取り上げた。受傷前に比較して、受傷後では膝関節への負担を減らすような姿勢をとっていた。参考文献1)福井勉:膝関節固定下における身体運動が脛骨前方運動に及ぼす影響、昭医会誌、54:176-184、1994