抄録
【はじめに】四輪型歩行器(以下,歩行器)は安定性に優れ,操作が簡単であり歩行補助用具の一つとして広く用いられているが,反面,前傾姿勢になりやすく歩容が悪くなるという欠点もある.臨床場面において,人工膝関節全置換術(以下TKA)術後の症例の歩行器歩行時においても体幹前傾姿勢がみられ,さらに腰痛を訴える症例を認めることが多い.しかしながら過去の研究において,歩行器を使用した歩行が体幹に及ぼす影響については十分に検討されていない.今回,歩行器歩行が体幹に与える影響について,腰痛を指標とし,当院でのTKA術後の歩行器使用期間と腰痛発生の関連について比較検討したので報告する.
【方法】平成13年4月から平成15年7月までに当院にて施行したTKA症例は43症例であった.医師診療記録ならびに理学療法士診療記録よりretrospectiveに歩行器使用期間と腰痛の有無を調査した.歩行器使用期間は歩行器での起立歩行開始から歩行器歩行終了までと規定した.腰痛の有無は症例の訴えにより判断した. 43症例のうち,これらの項目が明確に記載されていた症例を抽出し,両側同時TKA術後15例(男性1名,女性14名,平均年齢75.4歳)片側TKA術後8例(男性2名,女性6名,平均年齢69.4歳)の23例を対象とした.対象を腰痛あり群と腰痛なし群の2群に分け,2群間の歩行器使用期間を比較した.統計学的処理にはSPSS ver11.5を用いてt検定を行い,5%水準にて有意判定を行った.
【結果】以下に(症例数/歩行器使用期間)を示す.1)全TKA23例:腰痛なし(14例/18.4±3.9日) 腰痛あり(9例/36.9±12.3日)2)両側同時TKA15例:腰痛なし(9例/19.6±3.8日) 腰痛あり(6例/39.0±13.0日)3)片側TKA8例:腰痛なし(5例/16.4±3.6日) 腰痛あり(3例/32.7±11.9日)であった.腰痛の有無において歩行器使用期間を比較すると全てにおいて有意差が認められた.
【考察】今回,当院の両側同時TKA,片側TKA症例において腰痛の有無と歩行器使用期間に有意差が認められた.それによりTKA術後に腰痛の訴えがあった症例は病棟内での歩行器使用が長期化していることが統計学上確認された.今回のデータでは長期の歩行器使用が腰痛を誘発するのか否かは言及できないが,歩行器使用による体幹前傾姿勢が腰部のメカニカルストレスを増大させ,この前傾姿勢の長期化が腰痛を引き起こす原因の一つとなる可能性が考えられた.今後,我々は歩行器の使用が腰部に与える影響と,腰痛性疾患の有無を術前評価の時点で十分に検討するとともに,prospective studyを行い,TKA術後における病棟生活での歩行器使用による活動量向上と,歩行器歩行期間を短縮する術後リハビリテーションへの応用を行いたいと考えている.