抄録
【はじめに】高齢下肢切断患者は、基礎疾患に起因する合併症による筋力や全身耐久性の低下に加え、精神機能や意欲低下などの問題を抱えており、義足歩行獲得に難渋する。今回、右大腿切断に新たに左下腿切断が加わり両下肢切断となった高齢下肢切断患者が、義足歩行を獲得し、独居可能となった1症例を経験したので報告する。
【症例】76歳、女性、独居。既往として42歳に右眼熱傷し、義眼挿入。65歳頃より糖尿病(以下DM)。10年前ガス壊疽にて右大腿切断術施行、右大腿義足とT字杖使用して屋内外歩行自立、近隣外出時にはセニアカ-利用し、ADLおよび家事動作全般自立していた。H15年5月初旬より左足底の疼痛・腫脹出現、5月29日DM性壊疽にて左下腿切断術施行、義足作製および歩行獲得目的にて6月28日当院入院。
【開始時所見】断端長は左膝関節裂隙~13cm、右坐骨結節~17cm。左断端創治癒の状態は良好。断端末に軽度浮腫残存し、幻肢や幻肢痛および断端痛がわずかに出現。関節可動域は正常、筋力は両上肢4~5、右下肢4+、左下肢4。移乗動作は監視~軽介助、ADLはトイレおよび入浴動作監視~軽介助。DM自己管理可。精神機能面では痴呆など認めず、障害受容できており、自立心が強く、義足歩行や独居に対する意欲が高かった。
【リハ経過】H15年6月28日PT開始。断端荷重訓練、立位バランス訓練、筋力強化訓練中心に実施。訓練開始1週後にはパイロン使用にて平行棒内歩行訓練開始、翌週には両松葉杖歩行訓練へ移行。9週後、両側ロフストランド杖(以下ロフスト)歩行訓練へ移行。10週後、一側ロフストにて歩行訓練開始。12週後、両側ロフストにて屋内歩行自立し、病棟内を義足歩行で移動するよう指導。さらに応用歩行・ADL訓練を行い、外泊訓練実施。15週後、左下腿仮義足(PTB義足)完成。筋力は両上下肢ともに5レベルに改善、歩行能力は両側ロフストにて屋外監視、一側ロフストでは壁伝いにて屋内実用レベルに達した。最終時には応用歩行やADL、APDLの評価を行い、18週後の10月29日自宅退院し、独居可能となった。退院後も自宅では義足を装着して歩行しており、近医に定期的外来通院している。
【考察】本症例は右大腿切断に新たに下腿切断が加わった高齢両下肢切断患者であったが、義足歩行の獲得、ADL自立に至り、独居生活を実現した。その理由として、今回の左下腿切断以前に約10年にわたり右大腿義足を用いた義足歩行やADLが自立しており、義足装着や使用に慣れていたこと、明らかな痴呆がなく、独居生活に対する意欲が高かったこと、断端治癒の遅延や全身状態の悪化など認められず、義足歩行に必要な筋力や体力の向上とその維持が可能であったことなどが挙げられる。歩行の安定性、耐久性向上に主眼を置きつつ、応用歩行や日常すべての動作時に義足を使用した生活習慣を習熟する訓練を実施したことで、独居生活の実現につながったと考える。