抄録
【目的】
自然人類学の立場からヒトの直立二足歩行(walking)は,他の動物の移動(locomotion)と比較して,より高度にプログラムされた移動手段と言える.そのため例えば,下肢運動器疾患における関節・運動機能の低下は歩容(gait)に大きな影響を及ぼすことから,理学療法士は跛行動作の誘因となる障害因子を動的・静的環境下のもと多次元的に究明し,客観的かつ総合的な評価を行うことが必要である.この動的環境下における客観的評価方法の1つとして,近年我々はwavelet変換(以下WT)を用いた表面筋電図(EMG)周波数解析により,歩行時の動的EMG周波数特性がtype2線維の廃用性筋萎縮評価として有用であることを報告した.本研究では動的EMG周波数特性に加え,歩容に影響を及ぼすと考えられる他の障害因子をいくつか定量化し同特性の意義について多次元的に分析することである.
【対象及び方法】
被検者は手術予定の股関節疾患患者15症例で本研究の目的を十分説明し,同意書を得て行った.術前評価として,日整会股関節機能判定基準に従い,疼痛,可動域,歩行能力,ADLを評価し,さらに等尺性による股関節外転最大随意性筋力(以下,最大筋力)を測定した.次に術側の股関節中殿筋に電極と足底部に圧センサーを貼付し,EMG歩行解析を行った.得られた信号はMyosystem1200(Noraxon社製)を用いてコンピュータに取り込み,WTを用いた時間周波数解析を行い,歩行時立脚期の平均周波数(MPF)を算出し,踵接地前後のMPF変化量(MPFR)を求めた.また,反射マーカーを両上前腸骨棘に貼付し,三次元動作解析装置Motus2000(Peak社製)を用いて歩行時立脚期の骨盤傾斜角・回旋角(踵接地後からの角度変化)をEMGと同期して計測した.次に術中に中殿筋筋生検を行い,ATP染色により筋線維をタイプ別に分類し,画像解析ソフトにより筋線維径を計測した.そして,統計学的解析には主成分分析を用いて歩容に影響を及ぼす障害因子の特徴について検討した.
【結果及び考察】
第1主成分は骨盤傾斜角,MPFR,type2線維径,股関節屈曲,股関節外転可動域.第2主成分は骨盤回旋角,最大筋力,type1線維径,股関節伸展可動域.そして,第3主成分は疼痛,歩行能力,ADLに強い特徴を示した.また,各主成分の寄与率は,それぞれ39.1,22.1,13.0%であり,累積寄与率は74%以上であった.以上の結果から,跛行の特徴として前額面における骨盤傾斜角はMPFR,そして水平面における骨盤回旋角は最大筋力と関連性が深いことが示唆された.また,筋線維タイプでみたとき,MPFRはtype2線維径,最大筋力はtype1線維径と関連性が深く認められ,歩容の改善には従来の量的な最大筋力評価に加えMPFRの質的評価としての重要性が改めて示唆された.