抄録
【はじめに】
腰痛には理学的な問題だけではなく社会的,個人的心理要因が関与していると言われている.そこで,今回は臨床実習直前の体力,実習中の学生の腰痛経験および実習直後の疲労度を調査したのでここに報告する.
【対象】
評価実習において男性65%,女性74%が腰痛を経験した平成15年度昼間部第3学年と夜間部第4学年の男性58名,女性23名であり,平均年齢は男性27.3±4.3歳,女性24.0±4.6歳である.
【方法】
実習直前に文部科学省による体力テスト,体幹筋力では大阪市大方式,腹筋持久力ではHolmstrom法変法,背筋持久力にはSorensenテスト変法を実施した.また,筋・腱のタイトネスについては,SLRテスト,四頭筋テスト,腸腰筋テストを実施した.2回の実習直後に腰痛の状況,予防対策などをアンケート調査すると同時に蓄積的疲労徴候調査(CFSI)を実施した.
【結果】
実習1期目に腰痛を経験した者は男性69%,女性78%であり,考えられる原因についてもっとも多いのは男性では「長時間の立位」33%,女性では「トランスファーの容量の悪さ」33%であった.腰痛への対応では男性は「脊柱起立筋のストレッチ」43%,女性では「トランスファー時には患者と胸を合わせる」44%が多かった.2期目に腰痛を経験した者は男性48%,女性61%と減少していた.原因について男性ではトランスファーが22%に増えていた.1期終了直後のCFSIにおいて男性では「何かでスパーッとウサばらしをしたい」が71%,女性では「目が疲れる」が70%で訴え率がもっとも高かった.特性別項目では男性で慢性疲労徴候,女性で一般的疲労感と慢性疲労徴候が30%を超えていた.2期終了後では男性で50%を超える項目はなく,女性では「目が疲れる」57%,「よく肩がこる」52%が高かった.男女ともに30%を超える特性別項目はなかった.文部科学省体力テストにて全ての項目で全国平均より劣る者は男性10名,女性2名だった.体幹筋弱化が疑われた者は男性で11名,女性で9名であった.タイトネスの全項目で平均値を下回った者は男性で3名だった.2期終了後抑うつ徴候において平均値以上該当した者のうち,2期に腰痛を経験した者は男性63%,女性70%であった.体幹筋弱化が疑われる者のうち,腰痛を経験した者は男性55%,女性33%であった.体力テストの全項目において全国平均を下回った者のうち,腰痛を経験した者は男性で50%であった.
【考察】
1期目よりも2期目の方がCFSIの訴え率は男女とも低下し,腰痛経験率も低下していた.これらより学生の適応が考えられる.実習においては体力よりも心理的要因の方が強く関わっている可能性が示唆された.今回の調査において柔軟性の低さと実習中の腰痛との関連は低かった.