抄録
【はじめに】肩関節の機能解剖に関する文献は多数あるが、肩内転動作に関する報告は少ない。肩内転の正常可動域は0°とされているが(変法を除く)、臨床においては一見内転可動域が正常に見えるものの、肩甲骨固定下で他動的に内転すると健患差を有する症例が存在する。このような症例では、肩甲-胸郭関節での代償運動が確認される。以前、我々は肩可動域制限を有する症例の内転可動域と外転可動域の間に、他の可動域間に比べ特異的な相関関係を有することについて報告した。今回は肩内転動作の特性についてさらに検討しいくつかの知見を得たので報告する。
【対象と方法】対象は、当院外来通院中で片側に肩関節可動域制限を認める症例10例で、平均年齢71.1±12.5歳、平均身長158.6±9.5cm、平均体重64.3±11.8kgであった。調査項目は1.肩内転、外転可動域、2.安静坐位における肩甲骨角度(回旋、前傾、外転)、3.肩他動内転時の疼痛の有無と部位、4.肩他動内転・外転時の疼痛の強さ(VAS)、5.肩内転時の肩甲骨代償動作の有無(視診、触診)であった。ただし、肩甲胸郭関節の影響を排除し、肩甲上腕関節のみの可動域を測定するために、内転・外転可動域の測定は肩甲骨固定下で肩甲骨面上における肩峰-下角を結んだ線と上腕軸のなす角を測定した。
【結果】肩内転可動域健側 -38.5±12.5°、患側 -49.1±13.2°、外転可動域健側129.4±22.1°、患側109.4±27.1°でいずれも患側が有意に低下していた。安静坐位における肩甲骨角度は、回旋角度健側104.6±11.1°、患側96.7±11.2°、前傾角度健側50.7±5.0°、患側47.6±9.4°、外転角度健側55.5±9.2°、患側56.5±10.6°で回旋角度にのみ有意差を認めた。肩他動内転時の疼痛は10例中9例が訴え、VASは5.1±2.5cm、他動外転時の疼痛は10例中7例が訴え、VASは4.9±3.8cmであり有意差を認めなかった。疼痛の部位は上腕骨結節間溝4例、肩関節後上方2例、肩峰下方1例、その他3例であった。肩内転時の肩甲骨代償動作は視診、触診上8例で確認された。また、内転可動域と外転可動域(相関係数0.65)、内転可動域と肩甲骨外転角度(相関係数0.71)間に有意な相関を認めた。
【考察】今回我々は肩可動域制限を有する症例における肩甲上腕関節内転動作の可動域、疼痛及び、内転可動域と外転可動域間、内転可動域と肩甲骨角度間の相関関係についていくつかの知見を得た。内転可動域制限の原因は肩関節上方構成組織の短縮・癒着と考えられるが、他動内転時に結節間溝に疼痛を訴える症例が4例存在し、4例については内転動作時の二頭筋長頭腱の結節間溝内滑走に問題があり、内転可動域に影響を与えている可能性があると考えた。本方法で肩内転可動域を測定することは一般的ではないが、実際に可動域制限、疼痛を有する症例は存在し、自動内転時に肩甲胸郭関節での代償が確認された。そのため、肩内転動作に対する評価・治療が必要であると考えた。