抄録
【目的】我々は第22回関東甲信越理学療法士学会において、不全頚髄損傷者の安静立位での脊柱アライメントに着目し、健常者に比して、体幹前傾位、腰椎前彎減弱、胸椎後彎減弱の傾向があったと報告した。臨床上、このようなマルアライメントにある不全頚髄損傷者は肩甲骨が内転、挙上し、そのために上肢機能を阻害されている印象がある。そこで今回、立位での体幹前傾位、胸椎後彎減弱と肩甲骨の位置が相互に関連するのではと予測し、不全頚髄損傷者の安静立位での肩甲骨の静的な内外転の位置と脊柱アライメントの関係を知ることを目的として研究を行ったので報告する。
【方法】対象はFrankel分類Dの外傷性不全頚髄損傷者男性10名(以下頚損群)、平均年齢60.8(48~72)歳と健常者男性10名(以下健常群)、平均年齢61.0(46~71)歳とした。各被験者には研究の趣旨を説明し、了解を得た。測定肢位は両上肢を下垂した安静立位とした。脊柱アライメントの測定は角度表示付き水準計と金属板を組み合わせた傾斜計を用いた。上後腸骨棘の高さの正中仙骨稜上(以下S2)、第12胸椎棘突起(以下T12)、第1胸椎棘突起(以下T1)を骨指標とした。傾斜計を各骨指標に当て、鉛直線に対する角度を測定した。胸椎後彎角は、[180度-(T1の角度+T12角度)]と定義した。肩甲骨外転の指標はDiVeta(1990)らの方法を一部改変した方法を用い測定した。テープメジャーを用い、肩甲棘の延長線上にある肩甲骨内側縁から棘突起までの距離を肩甲骨内側縁から肩峰角までの肩甲骨の大きさで除した値を一側ずつ算出し、左右の合計した値を各被験者の肩甲骨外転の指標とした。2群間の肩甲骨外転の比較には対応のないt検定を用い、脊柱アライメント(S2、T12、T1の角度、胸椎後彎角)と肩甲骨外転についてはPearsonの相関係数を用いて検定し、有意水準は5%未満とした。
【結果】肩甲骨外転は頚損群で0.81±0.1、健常群で0.96±0.2であり、頚損群の肩甲骨は有意に内転していた。脊柱アライメントの各測定項目と肩甲骨外転には両群とも有意な相関関係は認められなかった。
【考察】肩甲骨の位置が頚損群でより内転している原因は、僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋の過活動、前鋸筋の筋力低下が影響していると考える。これらの筋群に影響を及ぼす因子は、上肢の麻痺の程度や使い方、上肢の痛みや痺れ、動作時の過剰努力などであると推測された。脊柱アライメントと肩甲骨外転には両群とも有意な相関関係は認められず、それぞれが他の要因により影響を受けていると思われた。しかし、頚損群の結果は測定肢位を、両上肢を下垂した安静立位と設定したために肩甲骨と脊柱の関係を示せなかったのかもしれず、今後、歩行時や上肢を使用した食事などの動作時の肩甲骨と脊柱の関係を、肩甲骨の可動性を踏まえて検討していきたい。