抄録
【はじめに】Sprengel変形に対する肩甲骨引き下げ術後の理学療法について検討し、肩甲骨の胸郭に対する固定性の獲得,肩甲胸郭関節の機能改善が肩関節可動域の改善につながることを、第38回日本理学療法士学術集会において報告した。
今回は、術後1年以上経過した症例の肩甲骨上方回旋角度を単純X線正面像から分析し、肩甲胸郭関節の機能を評価し、術後の理学療法を再検討した。
【対象と方法】当センターにて肩甲骨引き下げ術(Green変法)を受けた6歳から10歳の男女4名(手術側左3例、右1例)を対象とした。術後経過観察期間は1年3ヶ月から5年3ヵ月であった。安静時立位での両上肢下垂位(以下、下垂位)と120度外転位(以下、外転位)の2枚の単純X線正面像より、前額面からの肩甲骨上方回旋角度を計測した。計測は(1)肩甲棘と肩甲骨内側縁の交点から下角を結んだ線と重力線のなす角(以下、AB角)、(2)関節下結節と下角を結んだ線と重力線のなす角(以下、BC角)を計測し、各症例の手術側と非手術側における上記2種類の角度の比較検討を行った。
【結果】AB角の平均角度は手術側下垂位11.25度(5~20度)、外転位48.75度(45~55度)、非手術側下垂位12.5度(5~25度)、外転位48.75度(45~55度)であった。一方、BC角の平均角度では手術側下垂位52.5度(45~55度)、外転位16.25度(10~25度)、非手術側下垂位41.25度(25~55度)、外転位8.75度(5~10度)であった。
【考察】AB角では手術側、非手術側間の角度の差は見られなかった。BC角では手術側と非手術側間で角度差がみられた。Sprengel変形では、肩甲骨内側縁の形成不全などの奇形があり、そのため肩甲骨の純粋な上方回旋角度が制限され、胸郭を前方にすべる傾向が見られ、回旋軸にずれが生じることが考えられる。また、中部、下部僧帽筋の低形成あるいは無形成と手術による菱形筋の筋力低下が生じ、肩甲骨を胸郭に固定する周囲筋の筋バランスの不全が引き起こされる。そのため僧帽筋上部線維を中心として肩甲骨を前上方に移動させる肩甲上腕リズムの異常が、回旋軸にずれを助長していると考えられる。 以上のことから、Sprengel変形では視診のみで肩甲骨の運動を評価することは困難であり、三次元CTやVTRを用いて、立体的、動的に肩甲骨の動きを評価する必要がある。
【まとめ】Sprengel変形術後の理学療法は、肩甲骨奇形や手術による肩関節周囲筋機能不全を考慮に入れ、術後早期には解離された菱形筋の筋力増強を中心に肩甲胸郭関節の固定性を向上させる。その後、肩甲上腕リズムの改善を目的としたアプローチへ移行していく必要があると考える。