抄録
【目的】
スローイングによる肘関節障害(以下投球障害肘)に対する投球復帰の一つの指標として肘関節の伸展筋力の推移を経時的に調査し、投球復帰時期を客観的に判定する方法を検討したので報告する。
【対象および方法】
投球障害肘で全力投球不可能な野球選手144名(10歳~26歳)を対象とした。筋力測定にはBiodexを用い、角速度300°/秒で投球をイメージして肘関節を連続30回伸展運動を繰り返させる筋持久力テストを行った。また握力および角速度60°/秒での肘関節伸展筋力を合わせて測定した。各測定は初診時および治療経過中に経時的に行い、投球時の肘関節痛の有無との相関を調査した。
【結果】
投球障害肘群の筋持久力比、筋力、握力は各々3~50%、15~26ft-lb、25~53kgの幅があり、投球復帰群は各々69~76%、16~27ft-lb、24~55kgであった。筋持久力比、筋力、握力が投球復帰可能の判断に及ぼす影響についてロジスティック回帰分析を用いて検討すると、筋持久力比75%以上が有用な指標と考えられた。
【考察】
投球障害肘に対する投球復帰時期を明確に決定するものはこれまで報告がない。今回測定した3つの指標のうち投球復帰に相関したのは筋持久力比であり、全年齢層を通じて75%以上に回復することが安全な投球復帰に必要な条件と考えられた。
【まとめ】
筋持久力比の経時的な測定は投球復帰時期を知る有力な手段と考えられ、同時に投球復帰に筋持久力の回復は重要な因子であると推察された。